初めての体験 16 - 19
(16)
アキラにはそう言って出てきたものの、ヒカルの気持ちは重かった。
倉田のあの巨体では、ヒカルはつぶされてしまうのではないだろうか。
やっぱり、このまま引き返そうか。倉田の家の前まで来てまだヒカルは
迷っていた。
「進藤?」
ヒカルが悩んでいるうちに、当の本人に後ろから声をかけられた。
どうやら、買い物帰りらしく、コンビニの袋を下げていた。
「倉田さん・・・。」
改めて倉田を眺めると、やっぱり大きい。小柄なヒカルが二人いや、
三人は入りそうだ。身長も高いが、それにもまして横幅がでかい。
「何、やってんの?」
ヒカルは覚悟を決めた。
「倉田さんに一局打って貰おうと思って。」
ヒカルはにっこりと笑いかけた。
倉田はあっさりと了承し、ヒカルを家の中に招き入れた。ヒカルの予想に
反して、倉田の部屋の中は意外と奇麗に片づいていた。
「へえ、倉田さん、案外奇麗好きなんだ。頭、ぼさぼさだし、ズボンもシワだらけだから、
もっと、散らかっているかと思った。」
「ハハ。進藤ラッキーだな。昨日掃除したばっか。」
倉田は人懐こい笑顔を浮かべた。ヒカルは、倉田が嫌いではない。性格は
単純で明るく、ヒカルと似たところがあった。
座布団を碁盤の前に、敷いている倉田の背中にヒカルは抱きついた。
「進藤?」
倉田はビクともしない。もしかしたら、蚊が止まったくらいにしか、感じて
いないのかもしれない。そんな、倉田の耳元に唇を寄せて、ヒカルは囁いた。
「倉田さん・・・オレと・・・しない・・・?」
(17)
ヒカルの甘い声は、倉田の脳天を直撃した。背中がゾクッとした。首だけで
振り向くと、自分を覗き込んでいるヒカルと目があった。その瞳は妖しい色を
浮かべている。
倉田は自分の胸元にまわされているヒカルの手を掴むと、そのまま前に
引っ張った。ヒカルはバランスを崩し、倉田の前に倒れかけた。しかし、
ヒカルはまるで空気のように軽く、倉田に抱き留められた。
倉田の膝の上で、ヒカルはびっくりして目を丸くした。
「進藤。可愛いな。」
倉田が愛嬌のある笑顔で言った。そして、目を丸くしているヒカルの唇を
分厚い唇で塞いだ。倉田は、ヒカルにキスをしながら、その細い体を抱きしめた。
息苦しさにヒカルは喘いだ。倉田は、慌てて力を抜いた。
「すまん。もっと、優しくしないとな。進藤は細っこいから。」
倉田がまた笑う。ヒカルも笑った。いつもの明るい笑顔だった。
「そうだよ。もっと優しくしてよ。でないとオレつぶされちゃうよ。」
と、口をとがらせる。倉田に抱きしめられていると、不思議と安心する。
そんな自分にヒカルはとまどっていた。このどっしりとして揺るがない
体型が警戒心を薄くさせるのかもしれない。ヒカルは倉田の胸に頭をもたれ
かけさせた。
倉田の厚い指先がヒカルのシャツの中をまさぐった。乳首へと辿り着くと、
乳輪を指でなぞり、突起を押しつぶした。
「ああん」
ヒカルが声を上げた。倉田はしつこく、乳首を弄ぶ。
「や・・・やだ・・・」
倉田はヒカルのシャツを捲り上げ、ジーパンに手をかけた。ヒカルは
大人しくされるがままになっている。倉田は自分も服を脱ぐと、もう一度、
ヒカルを膝の上に座りなおさせた。
ヒカルの乳首を舌でなぶりながら、股間に手を這わせる。
「く・・・くら・・・た・・さ・・・」
「進藤。気持ちいい?」
倉田がヒカルに問いかける。ヒカルは黙って、吐息をかみ殺した。
「言わなきゃ途中でやめちゃうよ?」
ヒカル自身を弄びながら、倉田が楽しそうに言った。
(18)
「や・・・やだ・・・やめちゃ・・・」
ヒカルが泣きそうな声で倉田に訴えた。倉田は、
「うそうそ。進藤は可愛いな。」
満足そうに笑った。
倉田はヒカルが出した先走りで、ぬるぬるになった指で後ろの入り口に
触れた。
「きゃう」
ヒカルの体がビクッとはねた。そのまま、そっと指でほぐす。
「あぁ・・・あん・・・んん・・・」
ヒカルが絶え間なく声を漏らし続ける。
「進藤。いくよ。」
倉田はヒカルを軽々と持ち上げ、そのまま、自分の上に落とした。
「あぁ────────────」
「ああ・・・いい・・・くらたさん」
倉田が体を揺するたび、ヒカルのものがでっぷりとした倉田の腹にこすれる。
その快感と後ろから与えられる感覚に、ヒカルはおぼれそうになる。
何も考えられなかった。頭の中が真っ白になり、意識が途切れた。
「倉田さんに打って貰えた?」
アキラがヒカルに問いかけた。ヒカルはちょうど感想を書いているところだた。
倉田・・・次代を担う実力派。その技量は侮りがたし。
「うん。やっぱ、塔矢の言う通り、食わず嫌いはよくねーよな。
打ってもらって良かったよ。でなきゃ、倉田さんの強さはわかんなかった。」
と、ヒカルがしみじみと答えた。
「・・・?前にも、打って貰ったことあったんだろう?」
「あん時とは、状況がちがうもん。」
「・・・?よく・・・わからないけど、何か学ぶものがあったんなら良かったよ。」
アキラがヒカルの髪を梳きながら笑った。
「うん!塔矢のおかげだぜ!」
ヒカルはアキラに抱きついた。
<終>
(19)
ヒカルは、自分のシステム手帳をじっと見つめて考えていた。名前が幾つか並んでいる。
『・・・偏っている。』と、ヒカルは思った。一人例外はいるが、それ以外は全て、若手の名前だ。もっと視野を広げなければ・・・。強くなるためには、選り好みをしていてはだめだということは、倉田で勉強済みだ。
手始めに、よく知っているあの人からにしようか。
院生が帰った後の棋院の大広間、篠田も帰ろうと腰を上ようとしたとき、入り口に人影が見えた。首だけだして、こっちを覗き込んでいる。篠田はその顔をよく知っていた。
「進藤君。どうしたんだね?」
今日は日曜日。プロであるヒカルの手合いの日ではない。ヒカルは訝しんでいる篠田の顔を照れくさそうに見た。
「篠田先生・・・。オレ、先生にお礼を言おうと思って。」
「お礼?何のことだね?」
ヒカルは続けて言った。
「オレがプロになれたのは先生のご指導のおかげです。」
「いや、それは進藤君が、がんばったからだよ。」
篠田はヒカルの言葉を嬉しく思った。眼鏡の奥から優しい目を細めてヒカルを見た。
院生師範の篠田はやんちゃで明るいヒカルを目にかけていた。ヒカルは篠田の前に正座した。
そして、
「先生のおかげです。本当にありがとうございます。」
と、言ってヒカルは篠田の手を両手で握った。
「し・・・進藤君!?」
篠田は狼狽えた。ヒカルが篠田の掌を指でくすぐったり、撫でたりしたのだ。
そんな篠田にヒカルは顔を近づけて言った。篠田の知っているヒカルではなかった。
「せんせい・・・お礼がしたいんです・・・」
ヒカルの唇が妖しく動く。ヒカルの瞳に囚われたように、篠田は動けなくなった。
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