Trinity 16 - 20

(16)
社は構わずに、その指を動かした。内部を掻き混ぜるように、押し広げるように。指を抜
き差しし、堅く閉ざされた狭門をほぐそうとした。一旦、指が引き抜かれ、ホッとしたよ
うにアキラは体の力を緩めた。だが、すぐに今度は指二本が侵入してきた。
「ぅうん……」
粗暴な仕打ちにアキラはうめいた。
「塔矢ッ、塔矢ッ、イヤだッ、塔矢はオレのモノだッ…」
ヒカルが叫んだ。涙をポロポロとこぼしていた。
ヒカルはアキラをギュッと抱き締めた。
アキラはこの行為がヒカルを守るためだったことを思い出した。強張っていた心が一度に
ほぐれる気がした。
「いいんだ…、キミのためなら……」
「そんなのイヤだッ……」
もう一度頭を撫でようとした手をヒカルがつかむと、強くくちづけた。ヒカルはアキラの
頭を抱き寄せると唇を吸った。
「ダメだ…、いまは……」
アキラは顔を背けた。
「イヤだッ…、塔矢はオレのモノだッ……」
泣きながらヒカルはもう一度アキラの頭を抱き寄せ、強く強くその唇を吸った。舌をアキ
ラの中に押し入れ、あらゆるところを舐め、吸った。まるで、そこにあったしるしのすべ
てを拭い去ろうとするように。

(17)
ヒカルのくちづけは、魔法のような不思議な効果をもたらした。
社の横暴に萎えかかっていたアキラのペニスは硬さを取り戻していた。
瞳に力が甦っていた。アキラの中の情欲の炎が再び燃え始めた。
今度はアキラがヒカルの舌に自らの舌をからめ、強く吸った。
アキラは両手でヒカルの頬を挟み、涙に潤んだ大きな瞳をジッと見つめると、フッと微笑
んでからその瞼にくちづけの雨を降らせた。涙に濡れた頬を唇で覆い尽くした。唇を重ね
ると、舌でヒカルの中を愛撫した。
首に回されていた腕から力が抜け、肩に流れた。
「ふ…、ぅん……」
さらけ出されたヒカルののどをアキラは強く吸った。
不思議な効果はアキラの下肢にも及んでいた。
強張りがとけると、社の指を拒絶しようとしていた狭門からも余計な力がなくなった。か
つて侵入者を受け入れたことがあったとは思えないほど狭く閉ざされていたその場所が、
柔らかくとき放たれていた。痛みすら与えていた二本の指のもたらす刺激に、素直な反応
を示し始めていた。自由な動きを阻み、ニ本の指をはね返そうとしていたアキラの内部は
外部のものを取り込もうとしている。内壁を探ると、ひくつくようにリズムをもって動い
ているのがわかった。自在に動き始めたその指が、アキラのある一点をかすめた。
「ぅうん……」
アキラの口からあえぐ声が洩れた。
「そうか、ココか。ココがエエんやな」
もう一度その場所をこするように触れて反応を確かめた。
「いやっ……」
すぐに腰を振って逃れようとする。だが、その拒絶の声には先ほどまでとは違い、甘いも
のが含まれていた。刺激から逃れられたのはその時だけだった。
社は指を抜くと、今度は指を三本に増やした。

(18)
指を増やしたのに、強い抵抗はなかった。アキラの内部から出たうるおいで、指を抜き差
しする音がクチュックチュッと響いた。狭門を広げるように動かしたり、中で指をバラバ
ラに動かした。アキラはすでにほぐれていた。
アキラの中で遊ぶ指は、前立腺を嬲った。さするように、掻くように、震わすように。
「あぁっ……」
その度、アキラは逃れるように腰を上下に左右に動かした。
その動きはヒカルへの抽挿の動きでもあった。
「う…、あふ……」
ヒカルも感じていた。ヒカルの世界には、今はただその手に捕まえたアキラしかおらず、
アキラの動きの一つひとつがヒカルを翻弄していた。
アキラに与えられる刺激は制限されていた。抽挿の速度が速まると、社の指は止まる。興
奮が治まると再び指が蠢き始める。
よく知りもしない男に狭門を弄られ、興奮を導かれるなど、アキラにとって恥ずかしさの
極致だった。その上、自分はヒカルを突き刺した姿を晒しているのだ。狭門を弄るのは、
いつもは自分がヒカルにしていることだった。自分たちの心が通じているから許される行
為のはずだった。だが、社の指が紡ぎ出す快楽から逃れるすべはなかった。いつしかアキ
ラは忌むべき行為が与える刺激を待ち望んでいた。
もどかしい思いが何かを求めていた。ヒカルはその先を求めて、アキラの体を揺すった。
より深く結びつくため、アキラはヒカルの足首をつかむと、自分の肩に乗せた。最初に左
足を、次に右足を。アキラもヒカルも何かを求めていた。いつも二人で向かう頂点とは違
う場所に向かっているようだった。
社の施した行為によって、アキラの狭門はかすかなピンク色から赤く変わり、わずかに膨
れていた。
「いくで…」
アキラに小さく声を掛けると、社は辿りつく場所を求めて熱く主張する自身を、濡れて柔
らかくほぐれた狭門に押しあて、一気に貫いた。

(19)
「あああっ……」
忘れていた痛みだった。
長く熱い杭が自分の中を差し貫いた。
こんなに痛かったろうか。ボクはもっとやさしく導かれた気がする。
アキラは眉をしかめ、顎を仰け反らせたまま、しばらく動くことができなかった。
そこが自分の中心になり、熱く脈打っていた。体が引き裂かれそうだった。なにも考える
ことはできなかった。
「くっ……」
社はアキラの狭さにうめいた。誘うようにヒクついていたはずの内壁は動きを止め、受け
入れるのを拒否しているように思えた。アキラは痛みに体を強張らせているようだった。
社は身じろぎ一つしない肩先を噛んだ。
アキラはピクリと肩を震わせ、意識が戻ったようにホォッと息を吐いた。肩がふらりと揺
れた。社はその肩を抱き寄せると、白く伸びる襟足にくちづけた。ハァハァと止まらない
吐息を抑えながら、甘く香る襟足を舐めた。両手を前に回した。滑らかな肌のひときわ柔
らかな場所を探りあてると、そっと優しく指の腹で撫でた。じっと撫で続けた。その間、
腰は動かさなかった。それは社にかなりの我慢を強いた。だが、ありったけの自制心をふ
るい、その時がくるのを待った。
「…んぁ……、はぁ……」
しばらくして、アキラから吐息が洩れてきた。社の愛撫が少しずつアキラから痛みを遠ざ
けていった。
まだすべてを収めきったわけではなかったが、社はそれ以上進めずに、腰を回した。ゆっ
くりと腰を動かし始めると、アキラはその動きに反応を示した。時折、社がアキラのある
場所を通りすぎると、アキラの顎が仰け反り、体が震えた。アキラが快感に身を委ねつつ
あるのを確かめると、社はアキラの背に覆い被さり、腰を深く進めた。
「ううっ……」
苦しそうな声がしたが、先ほどのように体を固くすることはなく、アキラは社のすべてを
受け入れていた。

(20)
罰だと思った。ヒカルを自分のものにした、自分の罪への。
そして、ヒカルを抱いていながら、つらい思いをさせていながら、自分がこんな痛みを与
えていることを忘れていた罪への。
熱く猛々しいものが自分の中心を貫き、串刺しにされていた。動くことは叶わなかった。
熱く張り詰めた異物が腹部をいっぱいに占め、頭まで突き抜けそうに思えた。自分の体を
引き裂くのだと思った。
熱い杭はゆっくりとアキラの中から引き抜かれていった。赦されるのだと思った。
突然、ゾクリとアキラの背中を衝撃が走り抜けた。
「ああっ……」
これまでにない大きな快感がアキラを襲った。堪えきれずヒカルの肩を握り締め、腰を激
しく打ちつけようとした。だが、社とつながったままのアキラには、十分に腰を振ること
ができなかった。
「やぁ……、あぁっ……」
もどかしさに声が震えた。
杭が再びアキラに埋め込まれた。自分の中が満たされた満足に、アキラはホッと息をつい
た。やるせない思いが癒された気がした。だが、それが引き抜かれると、前よりも強い快
感が生まれ、その後は思うさま振る舞えない切なさがいっそう強くなった。
社が抽挿を繰り返す毎にアキラの快感は高まり、その切なさも増した。いつしか切なさは
涙に形を変えて、アキラから止めどなく流れ落ちていった。