甘い経験 16 - 20
(16)
「…進藤、」
耳をくすぐる優しいささやき声に、おぼろげな意識の中でヒカルが答える。
「な…に?とうや…」
「いい?」
なにが?と聞き返そうとした時には既にヒカルの身体はうつ伏せにされていた。
アキラがヒカルのうなじに軽くキスする。そして背筋をすっと指でなぞると、ヒカルの
身体がビクンとはねた。
アキラの手がヒカルの白い双丘を愛しそうに撫で、それからチュッと音を立ててそこに
キスした。そしてそのまま双丘を揉みしだきながら背中の窪みに口付けし、ゆっくりと
唇と舌での愛撫を開始した。
アキラの舌が、ヒカルの背骨に沿って探るように動いていく。双丘の谷間を降りて
行こうとするその動きから、ヒカルにアキラの意図が伝わった。
「やめっ…やめろよ…っ、そんなとこっ…!」
ヒカルはアキラから逃れようとするが、アキラの手がしっかりとヒカルの腰を捉えて
放さない。そしてヒカルの抗議を無視して、そのまま舌先でを入口をくすぐった。
むず痒いような、くすぐったいような感触に、ヒカルが身体を震わせる。
突然、アキラの攻撃が止んだ。どうしたんだろうと頭を巡らすと、アキラは手を伸ば
して、いつのまにかベッドサイドに置かれていた見覚えの無い小ビンを手にとった。
そして中に入っていたとろりとしたものをその手に受けるのが、見えた。
それは何だ、と問う間もなく、アキラがヒカルの背を抑え、自分の足でヒカルの両足を
割り開き、固定する。そしてヒカルは後ろにヒヤリとしたものが塗り込められるのを感じ、
その感触に声にならない悲鳴をあげた。
「な、なに?今の………ひぁっ…」
そのままぬめる指がヒカルの中に侵入してきた。
「潤滑剤だよ。」
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「バッカヤロウ…なん…で、そんなの……んなに、用意がいいんだよっ…!」
ヒカルの必死の抗議に、アキラが優しく答える。
「キミだって、そのつもりだっただろ?」
耳元で甘い囁き声が聞こえる。
そのつもりだったのは確かにその通りだけど、でも違う。こんな筈じゃなかった。
ヒカルの中でアキラの指が動いた。そのなんとも言えない感触から逃れようと、ヒカル
が身体をひねる。何かを探るように内壁をうごめく指がそこをかすめた時、ヒカルは
思わず声を上げた。
その声に応えるように、アキラの指がもう一度そこに戻り、確認するように軽く擦る。
「ここだね?」
アキラの冷静そうな声に、ヒカルは泣きそうになった。もう許してくれ、と言いたかった。
だがアキラはそんなヒカルに構わずに、ヒカルの内奥のポイントを攻める。
すっと抜け出るかと思った指は、更にもう一本追加されてヒカルの中で動く。
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「やっ、やだっ…、なに、これ……、あ、やぁっ……!」
アキラの指が動く淫靡な音がヒカルの耳にも届いて、ヒカルは羞恥に顔を赤く染めた。
その音が恥ずかしいだけでなく、いつのまにかアキラの指の動きに、もっと強く、もっと激しい
刺激を欲してしまっている自分がいる事に気付いて、恥ずかしくて気が変になりそうだった。
そして自分の口から漏れる、抑えようとしても押さえ切れないその声が、更にヒカルの羞恥を
強めた。それを煽るように、ヒカルの中でアキラの指が動く。
後方への刺激に、先程アキラの口に放ったヒカル自身はすでに先程以上に怒張し、涙を
こぼして、解放の瞬間を待ち望んでいた。
「とう…や…、オレ、もうダメ…」
イかせてくれ、ヒカルはアキラにそう哀願した。
「まだ、ダメだよ、進藤」
だがアキラはヒカルをぎゅっと握ってそれを押し止め、そして後ろから指を引き抜いた。
「あっ…」
突然空虚になったそこが失われたものを追い縋るように動いた。
が、すぐにそこに何か熱いものがあてがわれ、そして先程とは比べ物にならない重量と
熱さを持ったものがヒカルの中に侵入してきた。
「あ、あぁ…っ!」
身体をムリヤリ引き裂かれるような痛みに、ヒカルは悲鳴を上げた。
悲鳴を上げながらも、だがヒカルの狭道は入ってきた物を逃すまいと締め付けた。
「…んど……ちから、抜いて…」
苦しげな擦れ声でアキラが耳元で囁く。
「やっ…イヤだっ…!いやっ…あ、あぁ……あっ!」
だが体内に異物が侵入してくる苦痛が、肉体の悲鳴が、ヒカルに拒否の言葉を叫ばせる。
「進藤…進藤、進藤、」
なだめるように、懇願するように、アキラがヒカルの名を呼ぶ。
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「はっ、あ、あぁあーーー!」
残りの距離を一気に詰められて、ヒカルの口から悲鳴が上がった。
痛い。苦しい。辛い。涙がぽろぽろと頬を伝わり落ちる。
体内の異物感と痛みと不快感。じんわりと体内に何かが広がる感覚。
「と…や、」
ヒカルは助けを求めるように、自分にその痛みを与えている人物の名を呼んだ。
アキラが荒い息をついて、半ば脱力して、ヒカルの背に体重をかける。だがその腕は
しっかりと後ろからヒカルを抱きしめていた。
「進藤…」
熱い擦れ声が耳元で響く。背に押し当てられた心臓の鼓動を熱く感じる。
「あ、つい…」
背中から、アキラの擦れ声が届く。
「キミの、中って…」
バカヤロウ、とヒカルは心の中でアキラをなじる。熱いのはおまえだ。おまえの方だ。
耳元で感じる呼び声が、吐息が、熱い。自分を抱きしめる腕が、背に密着した胸が、熱い。
体内に留まったまま脈打っているアキラが、熱い。
その熱さに、熱に、呑み込まれる。心臓の音が、流れる血液の音が、体中で熱く大きく
感じられ、だがそれが自分のものなのか、アキラのものなのか、わからない。
アキラの手が頬の涙を拭い、アキラの唇が耳元を、首筋を優しく愛撫し、彼の名を呼ぶ。
「とう…や…」
ヒカルは首をねじって、彼の顔を見ようとした。
そのヒカルの唇に、アキラの唇が横からそっと優しく触れて、離れた。
ヒカルの目からまた、一筋の涙が零れた。
きっと、今流れている涙はさっきとは違うものだ。
「進藤、好きだ。」
アキラがヒカルの顎を捉え、アキラの唇が頬を流れる涙を吸い取りながら、言う。
「だから…」
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「や、やぁあっ…!」
繋がったままで体勢を変えられた痛みが、ヒカルにまた悲鳴を上げさせた。
アキラがすかさず、今度は向かい合う形でヒカルを抱きしめ、悲鳴をなだめるように、
今度は強く唇を吸い、そして頬を伝う涙をそっと舐め取る。
「とうや…、とうや、とうや、」
ヒカルは彼の名を呼びながら、その身体に全身でしがみついた。
そんなヒカルをなだめるように、アキラの唇がヒカルの額に、目元に、頬に、そして唇に、
そっと触れる。
小さな子供のように涙を流すヒカルが、アキラを呼ぶ声が、アキラを昂ぶらせる。
手の届かないところで輝いている太陽と思っていたヒカルが、強い陽射しにものともせず、
すっくと立ちあがり、周りの草花を圧するように咲いていたひまわりの花のようだと思っていた
ヒカルが、今、自分の腕の中で、小さな可憐な花のように、泣きじゃくっている。
その花をそうっと優しく眺めていたい気持ちと、荒々しく摘み取って散らしてしまいたい気持ち
とがアキラの中で責めぎ合う。だから、口では優しくヒカルの名を呼びながら、ヒカルの中に
留まっていたアキラは猛々しくその質量を増し、ヒカルの中でヒカルを圧迫する。
「くっ…」
その圧迫感にヒカルが苦しげな声をあげる。
けれどその声を無視して、ゆっくりとヒカルの中でアキラが動き出す。その動きがもたらす
ものが、苦しいのか、そうじゃないのか、わからなくなる。狭い入口をアキラが出入りする、
それがもたらす感覚が、痛みなのか、それとも熱さなのか、わからなくなる。耳元でやけに
大きく聞こえる熱い荒い息遣いが、自分のものなのかアキラのものなのか、わからなくなる。
そしてヒカルの中で動くアキラがヒカルの中のポイントを確かに刺激し、ヒカルは苦痛の奥
に確かに感じられる官能に身を任せようとする。熱い固まりがその官能に火を点け、気付いた
時にはその熱は脳髄にまで達して、考える事も感じる事も全てはドロドロに熔けてしまって、
もう、何もわからないまま、ただ、熱い熱に飲み込まれる。
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