偽り 16 - 20


(16)
ごめん・・・塔矢
彼は確かにこういった。
ボクは、なぜ彼がボクに謝罪するのか理解出来なかった。
彼が少し震えているのが、分かる。
なんとかしたくてボクはそっと、彼の方に腕を伸ばして彼の手に触れた。
ビクッ
進藤はボクのこの行動に驚いたようで、大きな目をさらにあけて
ボクを見た。
こうして、キミに触れるのはいつぶりだろう・・・。
触れているところが熱い。
「と・・塔矢・・・」
彼が、ボクに何かを言いかける。
ボクは彼の目を黙って見つめ、彼の次なる言葉を待った。
が、進藤はもうそれ以上発せず、かわりにボクの後ろの方を凝視している。
「進藤?」
「アキラくんじゃないか」
背後で、聞き慣れた愛しい人の声がした。


(17)
「お、緒方さん・・?」
ボクは反射的に振り向いた。
見ると、緒方さんと芦原さんが立っている。
相変わらずの白いスーツを身に纏い、彼、愛用のLARKの煙草が、
ボクの鼻を擽った。
「アキラ、進藤くん」
芦原さんが笑顔で寄ってきた。
「こんにちわ」
進藤は軽い会釈し、挨拶すると緒方さんを見てなんとも
いえない跋の悪そうな顔をした。
「アキラくん、進藤と密会かい?」
緒方が、皮肉まじりな事をいう。
「ち、違います」
ボクはあまりの言葉に急いで否定する。
声を張り上げてのそのあわてぶりに進藤と芦原さんは、びっくりしてた
ようだが、そんなことをかまっていられない。
緒方さんに、進藤の事で誤解されたくはなかったのだ。
だが、緒方さんは冷淡な目でボクをみて、手元の方に視線を移した。
はっ!慌てて、重ねた手を除ける。
”誤解される”
進藤は、ボクのこの動作に傷ついたようだったが、そんなこと今の状況を
回避することに比べたらどうでもいいことだった。
自分が一番大事なのは、緒方さんなのだから・・・。


(18)
「進藤、アキラくん、相席してもいいか」
断りを入れる前から 、椅子を引いて座ろうとする芦原を制すように
緒方は云った。
「どうぞ、別にかまいません」
進藤は、荷物をどけ緒方さんに席を譲る。
4人掛けの席に、ボクの隣に芦原さん、進藤の隣に緒方さんが
座る形となった。
碁打ちが4人となると、やはり定番は、碁の話で、話のタネはやはり
今日の進藤と芦原さんの対局だった。芦原さんと進藤は、
テンション高くなり検討に熱をいれた。
緒方さんは二人の会話に時々入り、自分なりの意見をいう。
ボクは、検討をしながらちょっとはホッとした。
そして明るくしゃべって話す芦原さんに感謝した。緒方さんのさっき
見せた あの冷淡な目がとても怖かったから。
進藤とボクと緒方さんの3人しかここにいなかったら、気まずい空気が
ずっと漂っていて居たたまれなかっただろう。
彼がいてくれて良かった。
だが、芦原の方はアキラと進藤くんがこの喫茶店にいてくれて
助かったと心をなで下ろしていたとはアキラは思うまい。
緒方だけは、なんか面白くなかった。


(19)
1時間経った頃、検討もようやく終わりを迎え、それぞれの暮らしの
話になった。
「進藤くんは、お子さん2人だったよね」
「はい」
「芦原さんとこは?」
「まだ一人、一番手がかかる時だよ」
「でも、2才って一番かわいいときですよね」
「まあね、進藤くんとこは、もう大きいだろう、なんたって早婚だから」
「上の子はオレがプロになった歳になりましたよ」
「あの時は、びっくりしたよ、いきなり結婚しちゃうから」
「はは、恥ずかしい」
「ファンの子たち、かなりショック受けてたよ、もうちょっと
青春謳歌したら、良かったのに」
「それは・・・」
「でも、結婚式で見たけど、あんなにかわいい彼女がいたんじゃ他に
目を向けるなんて出来ないよね。」
進藤と芦原さんの会話にボクは、入り込めない。
それは、きっと緒方さんも一緒だと思った、その瞬間緒方さんが
口を挟んだ。
「進藤、奥さんは迎えにいったのか?」


(20)
ビクッとヒカルの肩が揺れる。
緒方が発した言葉で、その場の空気が一瞬、凍った。
「どういうことです?緒方さん」
芦原は、緒方とヒカルの顔を交互にみる。
「言葉通りだ。進藤の奥方は、今実家に帰ってるのさ」
煙草を取り出し、緒方は火をつけ一息吐いた。
「そりゃ、大変じゃないか。早く迎えにいってあげなきゃ」
芦原は心配そうにヒカルを見る。
「緒方さんには、関係ありません」
ヒカルは、横を向いてきつく緒方を睨み付けるが、緒方は素知らぬ顔をし
言葉を続けた。
「つれないな、進藤、オレ達は関係ない仲じゃないだろ」
緒方はヒカルの肩に手を回す。
その言葉にこんどは、アキラが固まった。



TOPページ先頭 表示数を保持: ■

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!