Pastorale 16 - 20
(16)
道を外れて、先程ヒカルが木の上から見つけたスポットに分け入る。
ぐるりと辺りを見回して、ヒカルは、うん、と頷いてからリュックの中からガサガサと取り出したレジャー
シートをばさっと広げた。
「キミ、そんなものまで持ってきたのか。用意がいいな。」
半ば呆れ口調で言うアキラに、ホラそっち持って、と言って二人がかりでシートを広げ、四隅に荷物や
靴を置いて、その上にどっかと座り込み、アキラを手招きした。
「さあ、メシだメシだ、腹減った〜」
言いながらリュックの中から次々と食べ物らしきものを取り出し、
「じゃーん!」
と、その中の一つを得意げにアキラに突きつけた。
「サンドイッチ?」
「うん、ローストビーフサンド。美味そだろ。
ウチの近くの店なんだけどさー、こないだテレビにも出てたんだぜー。って言っても隣駅だけどな。」
と自慢げに言い、
「オマエ、こーゆーの好きだろ。」
にこっとアキラに笑いかける。
「限定発売とかでさ、昼に行くともう無くなってんの。今日は買えてよかったぜ。
絶対好きそうだと思ったんだ。」
確かにその通りだ。
もしかして今朝ちょっと遅刻したのは、わざわざ途中の駅でコレを買ってきたからだって言うんなら、
仕方がない、許してやろう、とアキラは笑う。が、
「それと〜、」
デニッシュやら、プラスチック容器に入ったデザートやら、更にはスナック菓子やチョコレートの類まで
次から次へと出てきて、アキラは少し呆れた。
「二人分にしちゃ多すぎるんじゃないか?」
「いいじゃん、余ったら持って帰って食えばいいんだし。足りないのってヤなの。
それにオマエはもっと食ったほうがいいぜ。」
(17)
「それと、コレな。」
といってヒカルは駅前で買ったワインを出してウィンクする。
「ちゃんとふた開ける奴ももらってきたし〜」
「進藤、できるか?」
「できるよっ!これくらい!できるから手ぇ出すな!」
ボトル上部の覆いをペリペリ剥がし、それから慎重にコルク抜きをねじ込ませていく。
奥まできっちりねじ込んで、片手で瓶を押さえて抜こうとして、ヒカルは顔をしかめた。
「うわ、キッツイ…」
コルクが乾燥しているのか、中々抜けそうにない。
「んーっ!」
真っ赤な顔をして格闘しているヒカルに、アキラがとうとう手を出した。
「ムリだよ。ボクが押さえてるから、引っ張って。」
「せぇの、」
二人がかりで取り掛かると、やがてギシッと小さな音を立ててコルクが動き出した。あ、気を付けて、
とアキラが制止する間もなく、呆気なくコルクは抜け、反動でボトルが倒れそうになるのを、間一髪、
アキラが押さえたが、揺れたはずみで少しだけ手にかかってしまった。
それをペロリと舐めとりながら、アキラはあることに気付いた。
「あのさ、」
と、額の汗を拭っているヒカルに問いかける。
「グラスは?」
ヒカルはぱたっと動きを止めてアキラをまじまじと見る。
「………………ない。」
「……よね。紙コップとかだって…」
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「コルク抜きまでは頭は廻っても、その先は思いつかなかったって訳か。」
とは言え、思いつかなかったのは自分も同じなのだから、ヒカル一人を責められない。
「うーん……」
どうしよう、とワインボトルを見ているアキラに、ヒカルが屈託なく言い放った。
「いいじゃん、このまま直接飲めば。」
けれど、アキラはあからさまに嫌な顔をしてヒカルを見返す。
「何だよ、オレが直接口つけたのなんて汚くて飲めない?」
「そんな事は言ってないけど、行儀が悪い。」
「じゃあ、飲まない?」
そう言ってボトルをもって見上げると、アキラがムッとした顔を返す。
ホントは飲みたいくせに。だってこれ、どっちかっていうとオマエのために買ったんだぜ?
オマエがよく肉には赤ワイン、とか言うから、ローストビーフに合わせてわざわざ赤買ったのに。
オレはそんなに飲めねぇし、ほんとゆーと、コーラとかの方がホントは好きだし。
(ふん、どーせ塔矢に比べるとオレはガキだよ。)
それにこんなとこで行儀がどうこう言ったってしょうがないじゃん。
ヒカルはアキラをちらと見ながら、そのままボトルを口に運んだ。
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「渋い。」
一口飲んでみて、ヒカルは顔をしかめた。
「まあ、赤だから多少渋いのは…」
と言いながら当然のようにアキラはボトルに手を伸ばした。
「そうか?こんなものじゃない?」
同じようにボトルから直接、一口飲んで、アキラは言った。
「本当は赤は空気に触れさせたほうが味がまろやかになるんだけどね。
デキャンタどころかグラスも無いんじゃ仕方がない。」
言いながらアキラはまたボトルに口をつける。
「悪くない。結構イケルよ。」
なんだかんだ言って、そのまま続けて飲むアキラを見て、ヒカルは呆れた。
何が行儀が悪い、だ。その飲みっぷりは何だよ?
「こら、自分ばっか飲んでるなよ、よこせ!」
と言ってヒカルはアキラの手からボトルを奪い取り、口をつけたのだが、慌てすぎてむせてしまった。
「飲めもしないくせに無理するから。」
「ち、違う!気管に入りそうになったからむせただけだ!」
「無理するなよ、進藤。」
笑いながらアキラが言う。
違うって言ってるのに。自分が酒飲みだからって、子ども扱いしやがって。
ムカつく。その酒、買って来たやったの誰だと思ってんだ。
「返せよ!塔矢!」
「ダーメ。」
ヒカルの手を遮って、アキラはヒカルに見せ付けるようにゆっくりとワインボトルを口に運ぶ。
下手に手出ししたらこぼしてしまう、と思って、ヒカルが動きを止めると、アキラがすかさず空いた手
でヒカルを抱き寄せた。
(20)
「んっ…!」
アキラから口移しで与えられたワインを、ヒカルはこくん、と飲み下した。
「美味しい?」
「…ん……」
さっきよりも美味しく感じてしまうのが何だか悔しかったけど、でも、やっぱり。
もう一口、とヒカルが言おうとした時に、
「ああ、残念だ。」
と、アキラがわざとらしく息をついた。
「ボクもあんまりお腹が空いたから、今はキミよりもそこのサンドイッチの方が魅力的だよ。」
え、という顔でアキラを見上げているヒカルに、アキラは悪戯っぽく笑いかけ、
「また途中でキミの腹の虫が鳴き出したりしないように取り敢えずは腹ごしらえしようよ?」
と言って、頬に軽くキスしてヒカルを放した。
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