アキラとヒカル−湯煙旅情編− 16 - 20
(16)
「汚い・・・?なんだそれ・・・。」
アキラの言葉は思いもかけないものだった。
「あんなことされたから・・・。」
アキラは、言葉を切ると自嘲するように口の端を上げた。
――なんてこった・・・。加賀は絶句した。アキラの言葉に打ちのめされた。アキラはあの事があった後も、傷ついたような素振りは見せず、かえって明るく加賀に接してきたのだ。
傷つかないはずが無かった。あの瞳、居留守を使った加賀を見た、すがるようなアキラの瞳、が今さらながらくっきりと蘇ってきて加賀の胸を締めつけた。
――オレは自分の事しか考えてなかった。
乱暴されたアキラが、それ以来避けるようになった加賀の態度をどのような思いで受け止めていたか、乱暴されたことよりもその事がどれだけアキラを傷つけたか、慮りもしなかった己が情けなくてたまらなかった。
ひとりで、幼いながらに懸命に考え、汚い自分という結論を導き出して、小さな箱の中に閉じこもった幼いアキラの姿が見て取れた。
「ボクは、汚い・・・あんなこと・・・。」
自虐的に笑うアキラの腕を引き寄せ、加賀はその唇を塞いだ。
訳がわからず瞳を見開くアキラを抱きすくめると、再び唇を塞ぎ、硬く閉じようとする滑らかな皮膚に噛み付いて、乱暴に舌を割り入れた。
「んっ・・・んっ。」
アキラは逃れようともがくが、きつく拘束されて身動きできない。
加賀は、逃げ回るアキラの舌を執拗に追いかけ、ついに捕らえると、熱く絡めとり、愛しそうに吸い付いた。
絡められては吸い付く舌先の甘い感触にアキラは身をよじって抵抗する。
「どう・・・して。」
やっと開放された唇から荒く息を吐きながらアキラは問う。
加賀の呼吸も乱れていた。昔よりも野性味を増した加賀の切れ長の瞳の中に、不思議そうな顔をした自分が映っている。
アキラは再び強く抱きしめられ、布団の上に押し倒された。
(17)
「汚えと思ってるヤツにこんなこと出来るかよ。」
アキラの両腕を張り付けて、両足を己の体で固定すると、加賀はアキラの首筋から鎖骨にかけて唇を這わせた。
「や・・・だ・・・。」
言葉とは裏腹に、くすぐったいという表現とは違う感覚に支配されていくのをアキラは感じていた。
アキラの耳朶を噛みながら加賀は片手でアキラの浴衣をはだけた。すぐさま抵抗するアキラの手が被さってきたが、加賀はいとも簡単にその手首を掴むと床に固定させた。
湯上りのアキラの肌は、まだ火照りを残してほんのり赤く、石鹸の香りがした。呼吸と共に上下する胸元に咲く二つの突起が、密やかに、雄の性を誘うように色づいている。
加賀の唇がその突起に到達すると、アキラは体を強張らせた。荒い吐息がそこに吹きかかるだけで、そこは敏感に反応する。アキラにもわかっていた。加賀の目の前に無理矢理晒された時から、そこは自意識過剰に勃ち上がり刺激を待っていた。
ぬるりとした感触が乳輪をなぞると、アキラは堪えきれずに声を漏らした。
敏感な部分から数ミリずれた部分への愛撫が執拗に繰り返された。それに堪り兼ねて、アキラは加賀の髪にすがるように指を絡ませた。
加賀の舌先が突起に僅かに触れると、背筋に甘い快感が走り、アキラは仰け反った。
「あっ、あっ・・・。は・・ぁぁ・・んっ」
舌全体を使ってそこを弄られ、アキラは嬌声を上げて加賀の頭をかき抱いた。
ふと、加賀が動きを止めて自身に回されたアキラの腕を優しく振り解いた。
はあはあと荒く息をはずませながら上気した顔でふたりは見つめあう。どうして?と問うようなアキラの瞳が加賀を猛らせる。
「ダメだ・・・これ以上やったら、止めらんなくなる。」
加賀はアキラの隣に大の字に倒れこむと、己を鎮めるように、大きく息を吐いた。
(18)
「オレは、おまえを抱きたかった。あれを見てからずっとおまえとやる事ばっか頭ん中ぐるぐる回ってた。」アキラは加賀の横顔を見つめていた。
「あのまま傍にいたら、きっとおまえに手を出してた・・・あの禿オヤジとオレは同類だな。」
加賀は、向き直ると、ぽん、とアキラの頭を叩きその瞳を見つめた。
「アキラ、おまえが汚いからじゃねえ。おまえは汚くなんかねえ。」
間近にある懐かしいその顔は、あの頃よりも精悍で男っぷりが良く、その瞳は鋭気に満ちていた。
正直、言われなければあの加賀だと気づく事はなかったかも知れない。
だが、アキラを慈しむように包み込む温かさは昔のままだった。
「わかったら、寝ろ。」
加賀は、アキラの乱れた胸元を合わせ、整えてやると、断ち切るように体を起こした。
「その方がいい。」
つぶやくようにアキラの唇が動いた。
「その方が良かった。」
アキラが何を言いたいのかがわからず、加賀は、虚ろなアキラの視線を追った。
二人の視線が絡んだその瞬間、アキラは加賀に身を預けた。そして加賀の胸に頬を摺り寄せた。
なぜそんなことをしたのか、アキラにもわからなかった。
ヒカルを愛し、触れ合いたいという衝動に何度も駆られた。
だが、ヒカルと愛し合おうとすると体がすくんで、自分ひとり、暗く深い闇の中に放り出され、沈んでゆく。
他人の侵入を拒む自分がいる。それは相手が愛する者ゆえなのかもしれないし、全く違う理由が存在するのかもしれない。そんな自分をどうすることも出来なかった。
今も、加賀を欲している自分にアキラは戸惑っていた。
加賀に好意以上の気持ちを抱いていた事は事実かもしれない。だが、今は何ものにも代えがたいくらいヒカルを愛している。
それなのに、この瞬間、加賀を死ぬほど欲しているのも、また事実なのだ。
本能が加賀を求め、癒しを請うていた。
アキラの瞳は熱を持ったように潤み、誘うように揺れた。
「ば・・・っか・・・。」
こらえていた衝動が一気になだれこむ。
加賀は、僅かに開かれたアキラの唇から舌を進入させた。アキラもそれに応え舌を絡ませてきた。
やがてふたりは狂ったようにお互いをむさぼり合いながら、縺れるようにして倒れこんだ。
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アキラの舌が甘く熱く加賀に絡みつく。
不安なのだろうか。加賀にしがみ付き、まるで乳飲み子のように一心に吸い付いてくる。
加賀は背に回された腕を優しく解くと、再びアキラの胸元を開き、覗く小さな突起を舌先で転がし、指で右の突起を摘み上げた。
「はっ・・・あっ。」
アキラは自身の声を殺そうと手の甲を口に押し当てる;。
「やめろ、なんて言っても、もう止まんねえからな。」
涙の滲んだ瞳に口付けし、アキラの身を起こし背中を向けさせると、貝の口に結ばれた浴衣の帯を解いた。
アキラを後から抱きかかえる形にし、浴衣を肩口まで捲くった。
華奢な肩・・・切りそろえられた漆黒の海が揺らめき、加賀を誘う。引き寄せられるように顔を埋めると、髪の香りが加賀を幻惑する。
強い衝動が加賀を支配し、後ろ手で強くアキラを抱きしめた。
黒髪を寄せて、うなじを露出させ、そこから肩先にかけて舌を這わせながら突起を親指と中指でつまみ人差し指で先端を弄る。
「あ・・・ぁぁん・・んっん」
突起を弄られると、それに呼応するように、アキラはぴくんと何度も背を反らせた。
胸にもたれかかるアキラの脚を広げさせ下着の上からペニスを撫でる。
突起を刺激しながら、すでに分泌物でぬるぬるになった下着の染みの部分を擦るとアキラは泣き声をあげた。
すっかり脱力したアキラの腰を浮かせるようにして下着を取り去ると、硬く勃起したアキラのペニスが現れた。
「デカクなったな。」
右手でこすりあげるようにしてペニスを扱くと、アキラはイヤイヤをするように暴れた。
「や・・・だ・・・恥ずかしい。」
「男同士だろうが。何を恥ずかしがることがある。」
それでも、アキラが腕から逃れようとするので、加賀は仕方なく部屋の照明を落とした。
枕元に置かれた行灯のぼんやりとした灯りの中でやっとアキラは大人しくなった。
(20)
アキラを布団に寝かせると、加賀は浴衣を脱いで全裸になった。意外に熱い胸板と、鍛えあげられたような腹筋の上にペニスが猛り狂ったように反り立っている。
それをちらと見て、真っ赤になって目をそらしたアキラに被さるように四つんばいになる。
「おまえが傍にいるだけで、こんな風になっちまう。」
そう告白すると、恥ずかしがって閉じられた浴衣の合わせを取り払い、肩から胸、臍の方に舌を這わせる。
「あ・・・ん・・・んっ」
思わず漏れてしまう己の声に戸惑うようにアキラは指を噛み、愛撫に耐える。
固く閉じようとする脚を大きく広げさせると、アキラのペニスにむしゃぶりついた。
ぬるりとした蜜を垂らしている先端を舌先ではじきながらしごき、吸い上げる。同時に赤くとがった突起を指先で転がす。
「ふ・・・はぁん・・・あん。」
嗚咽交じりの嬌声を上げながら、アキラは黒糸を振り乱し、上り詰める。
幼い頃の記憶が脳裏をよぎった。
だが、それは加賀に同じことをされる事で、清められていくように感じた。嫌悪よりも、諍う術のない快感に支配されてゆく。
「あっ・・・ああっ、もうっ。」
解放される一歩手前で加賀は根元を強く握り、アキラを閉じ込めた。
荒い呼吸で胸を上下させながら、涙を浮かべ、アキラは恨めしそうに加賀を見つめた。
「まだ、だめだ。今イッちまったら後が辛くなるぞ。」
そんな加賀に抱きつくようにして舌を絡ませる。火を付けられたアキラの体は熱を持ったように上気し、恥らう姿さえ、例えようもなく淫靡で、熱い体を持て余すようにこすり付け、雄を誘う。
アキラを押し倒すと両脚を広げ、屈伸させるような形で腰を持ち上げた。アキラの顔とアヌスが同時に目に入る体制だ。
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