誘惑 第三部 16 - 20


(16)
唇だけじゃ、足りない。
抱き合っているだけじゃ、足りない。
もっと深く、もっと近くに、触れ合いたい。もう一度、塔矢の全部を知りたい。知り尽くしたい。
ヒカルの手がアキラの身体を探る。
「待って…、待って、進藤、」
「塔矢、」
「ここじゃ、駄目だ。」
「イヤだ。待てない。」
「駄目だ、進藤…!」
ヒカルの手を拒もうとするアキラを、抗議を込めて見つめた。
どうして。どうしてここでやめるなんて出来るんだ。今すぐにおまえが欲しいのに。
けれど、アキラはヒカルを見つめながら言う。
「こんなとこじゃイヤだ。こんなとこで、人目を盗んで、声を殺して抱き合うのなんてイヤだ。
誰か来ないかとか、見つかったらどうしようとか、そんな事考えながら抱き合うのなんてイヤだ。
もっと、もっともっと、キミと一つになって、余計な事なんか気にしないで、他の事なんか忘れるくらい
抱き合いたい。だから、」
アキラがヒカルの両肩を掴んで、真っ直ぐに見つめて請う。
「進藤、ボクの部屋へ。もう一度。」


(17)
もどかしげに震えるアキラの手から鍵が滑り落ちる。金属音を立てて転がり落ちた鍵をヒカルが追う。
そっと拾い上げたその鍵を、ヒカルは不思議なものでも見るように見つめた。
「進藤…?」
「…いい?」
何が?と問う前に、ヒカルが拾い上げた鍵を鍵穴に差し込み、何の苦もなく吸い込まれた鍵を回す。
かちり、と鍵の外れる音がした。
ドアノブを回し戸を開け、乱暴に靴を脱いで部屋に上がる。ヒカルはそのまま真っ直ぐに奥へ向かった。
戸惑いながらアキラがその後を追う。
「進藤…!」
アキラが後ろからヒカルを抱きしめた。
背中にアキラの体温を感じながら、ヒカルはしばらくぶりのこの部屋を見回し、そして天上を見上げる。
仰のいて閉じた目の端から涙が流れ落ちた。
「ごめん、塔矢、ごめん…」
そう言いながらヒカルは身体に回された腕を乱暴に解き、向き直ってアキラを強く抱きしめた。
こんな部屋におまえを一人にしておいて。もう会わないなんて言っちゃって、会いにくるななんて言っ
ちゃって、ごめん。ごめん、塔矢。
「しんどう…」
耳にかかる息が熱い。摺り寄せた頬で涙が混ざり合う。唇を合わせると、涙の味がする。


(18)
もう、言葉なんて要らない。
ヒカルの手がアキラのスーツの上着を腕から落とし、ネクタイを解き、ワイシャツのボタンを外していく。
その間に、アキラの手がヒカルのTシャツをたくし上げ、頭から引き抜こうとする。
ベルトの金具を外しジッパーを下ろすと、アキラの着ていたスラックスがそのまま床に落ちる。ヒカルの
ジーンズは足に絡まる。アキラはヒカルを抱き寄せてベッドに倒れこみながら、ヒカルの下着に手をかけ
てジーンズごと引き下ろすと、ヒカルの手がアキラの下着を下ろしながら片足に残ったジーンズと下着
を蹴り飛ばした。
そうして全てを脱ぎ去った二人は、隔てるものが何もなくなった素肌の感触を確かめるように抱き合う。
が、ヒカルは、その抱きしめた身体の細さにショックを受けた。
服を着ていた時よりもはっきりとわかるアキラの身体は、腕に残る記憶よりも、全部が一回りずつ小さい
ような気がした。
肩の薄さが、手にあたるゴツゴツした骨の感触が、痛々しかった。
少し力を入れたらそのままぽっきり折れてしまうんじゃないかと思うくらいだった。
ヒカルは振り切るようにアキラの肩を掴んで身体を引き離した。
「ダメだ。今日はやめよう。」


(19)
「進藤?」
「さっきも思ったけど、塔矢、おまえ、痩せすぎ。」
そう言うと、ムッとしたような顔でアキラがヒカルを睨みあげた。
「こんな状態のおまえ抱いたら、壊れちゃうよ。オレ、おまえを壊しちゃうよ。今なら止められるから。
これ以上やったら歯止めが効かなくなって、おまえを滅茶苦茶にしちゃいそうだ。」
「そのくらいで壊れるほどやわじゃない。」
怒ったような口調でそう言った後、アキラはふわりと腕をヒカルの首に回して引き寄せ、耳元で囁いた。
「キミに壊されるんなら、それこそ本望だ。壊れるくらい激しくして。滅茶苦茶にして。キミの全部を感じ
させて。ボクをキミで一杯にして。」
息の熱さが感じられるくらい間近で、煽るような言葉を囁かれると、身体が熱くなる。鼓動が早く、激しく
なる。下半身に血が集まるのを感じる。
「塔…矢…」
それでも抗おうとするヒカルの唇をアキラが塞いだ。
「だ…めだよ、塔矢っ…!」
「…強情だね。」
逆にヒカルの身体を下にし、跨るような格好で、ヒカルを見下ろして、言った。
「キミが嫌だって言ってもボクはやめるつもりなんかない。」
そして乱暴にヒカルの脚を開き、顔を寄せていく。
「まっ、待てっ、塔矢っ…」
ヒカルの制止など聞き入れる筈もなく、アキラは確かに勃ち上がりかけているヒカルを口に含んだ。


(20)
ヒカルはあっという間にアキラの口の中で弾けた。
放たれたものを当然のように喉を鳴らして飲み込み、ヒカルを上目遣いに見ながら、
「精液は栄養あるってホントかな?」
そう言って、小さく笑いながら口の端に零れたものをペロリと舐め取った。
端整な顔に浮かぶ淫猥な表情にゾクリと心が震える。いや、震えるのは心だけじゃない。
「キミだって、一回出したくらいじゃおさまらないくらいのくせに。」
圧し掛かるようにヒカルの眼前に顔を突きつけながら、勢いを失っていないヒカルを弄る。
「ボクの身体の心配なんかするなよ。それくらいだったらキミをよこせ。
足りなかったのはキミだ。今ボクが欲しいのはキミだ。キミだけだ。」
真っ直ぐに見据える黒い瞳に心を奪われる。ドクン、と心臓が脈打つと同時に、アキラの手の中の
ヒカルが、ぐん、と大きくなる。ヒカルの中の衝動を見透かしたようにアキラが目を細め、
「これでもまだやめるなんて言うの?」
煽り立てるように耳元で囁く。
「とう…」
伸ばしかけたヒカルの腕を振り切るようにアキラは身体を起こす。
「欲しかったら嫌だって言ってもやれって、言ったのはキミの方だ。」
そう言いながらヒカルを見下ろしてにっと笑うと、ヒカルを呑み込むように一気に腰を沈めた。



TOPページ先頭 表示数を保持: ■

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル