研究会 16 - 20
(16)
「あぁ…ん、あん、あっ…は…」
ちゅぱちゅぱとイヤらしい音を立てながら乳首を吸うと
ヒカルの口からいい声が漏れ始めた。
右手でもう片方の乳首も攻め立てる。
「やぁ…っ」
快感に流されてしまいそうで、何かにすがりつくようにヒカルは必至で和谷の頭に手を回してきた。
それと同時に繋がった部分の肉が和谷を締め付け、きゅうきゅうと吸い上げるような動きをし始めた。
「うわ…」
今度は和谷が声をあげる番だった。
もう我慢がきかない。
「動くぞ」
擦れた声でそう言うと、和谷は前後に激しく動き始めた。
結合部分が濡れた水音を立てて、その音がお互いを更に興奮させた。
ヒカルの中で互いの肉が擦り合わさって、溶け合うような錯覚に陥る。
「あっ!あっ!」
突き上げる度にヒカルは声を上げ、必至で和谷の背中にしがみついてくる。
その姿を愛しく感じながら、和谷は動きを早める。
「はぁっ、はぁっ…」
ヒカルの身体を和谷の律動が激しく揺らし、頂点を目指した。
「あ、あっ、ーーーーっ!!」
身体の中で和谷が弾け、腸内に温かいものが広がるのを感じた。
ヒカル自身も3度目の射精をしていた。
(17)
和谷はしばらく行為の余韻に恍惚としてヒカルの中に入ったままでいた。
ふと我に返ると周りからの視線が痛い。
そうだ、ヒカルとの行為に夢中になって研究会の最中だということを忘れていた。
「ご、ごめん」
バツが悪そうに和谷はあわててヒカルの中から身を引いた。
ちくしょう。コイツらがいなかったらもう一回戦くらいやってやるのに。
今度進藤だけを家に誘ってみよう。抜け駆け上等、和谷はそう心に決めていた。
男とのセックスなんてもちろん初めてだったけど(ちなみに女の経験もないが)、
こんなにいいものだとは思ってもみなかった。すっかり身も心もヒカルに夢中な和谷だった。
ふと周りを見渡すと越智がいない。
どうやらトイレに篭もって検討中らしかった。
コンコンと扉を打つ音が聞こえてくる。
「進藤のここはこう攻める…次はここ…そしてこう…ぶつぶつ…
…最後にこうだ!これで進藤攻略は完璧なはずだ。次はボクの番だ!」
常に勉強熱心な越智だった。
(18)
(トイレで何の検討してるんだか…)
呆れていると、腕の下から「うっうっ」としゃくりあげる声が聞こえてきた。
「進藤?」
あわててヒカルの顔を覗き込むと、両手で顔を覆うようにしながら泣いている。
「ど、どうした?痛かったか?ごめん、どこが痛い?」
あたふたとヒカルの機嫌を伺う。
「…うっ…ちが…」
ヒカルは首を横に振る。じゃあどうして。和谷は自分達が行った行為が
一般的に強姦といえることをすっかり棚に上げて考えた。
「…どうして、わやも…ひっく…とうやも、みんな…オレにこんなことすんの?
オレ…ひっく…こんなん、ヤダ…」
友達だと思っていた棋士仲間たちから一度にこんなことをされて
さすがのヒカルも混乱しているようだ。
(…カワイイ…)
顔を赤く染め、長い睫毛に涙をいっぱい溜めてひっくひっくと子供のように泣くヒカルを、
その場にいた誰もが萌え萌えな気持ちで見つめた。
オマエが可愛いからだよ、と言ってやりたかったが、そんなことを言っても
当の進藤が納得するわけがない。
すっかり困り果てた和谷は「うー」と頭を掻く。
(19)
その時、横から門脇が助け舟を出した。
「進藤君、キミは気持ちよくなかったの?」
冷静な声で門脇が訊ねる。
その言葉にヒカルは泣くのをピタっと止めたかと思うと、さっと顔を赤くし、
恥ずかしそうにうつむいた。
「どう?オレには随分良さそう見えたけど…気持ちよかっただろう?」
さらに消え入りそうなくらいにうつむきながら、ヒカルはこくんと小さく頷いた。
「だったら何も気に病むことはないよ。こんなことするのはおかしいとキミは思うかもしれないが、
そんなことはない。こんなことするのは、みんなキミのことが好きだからだよ。
大好きな人と気持ちいいことをしたいと思うのは自然なことだからね。
キミも気持ちがいい。僕らも気持ちがいい。嫌がることは何もないだろう?」
諭すように門脇は静かにあやすように話かける。言ってることは無茶苦茶だったが、
その声には人を納得させるものがあった。年の功というやつだろうか。
「でも…男同士でこんなこと…」
まだ抵抗感を拭いきれないヒカルは当然のことを言った。
「男同士だからこそ気にすることはないんだよ。これはセックスじゃあない。
男同士だからね。お互い気持ちよくなる…そう、スキンシップだと思えばいい」
「スキンシップ…」
ヒカルはまだ納得いかない様子だったが、そういうものなのか、と思えてきた。
じゃあ、塔矢が自分を求めてくるのもそういった類のものなのだろうか。
ちょっと違う気もするが、お互いをもっと知りたいという気持ちがそういう手段を
取らせたのかもしれない。だって塔矢が自分をスキだなんて…ちょっとおかしい。
(20)
(まんまと騙されてる…)
と和谷は心の中でツッコミを入れたが、それでヒカルが納得してくれるなら
それに越したことはない。
「そうそう、スキンシップだよ!オマエともっと仲良くなりたいからさ。
オレ…お前と近づけた気がして嬉しいよ」
と言って和谷はにっこりと人懐っこい笑顔を見せた。
いつもどおりの和谷に少しほっとしたのか、ヒカルの顔も釣られて和らいだ。
「そう、そういうことだ。若手同士これからも仲良くしよう、進藤君」
自分の年齢を棚に上げて門脇が笑う。
「いいだろ?進藤」
今回本懐を遂げられなかった伊角もいつもの優しい顔で微笑む。
そっか、みんなオレのことが好きなんだ…。
なんとなくあったかい気持ちにさせられて、うん、と頷いてしまうヒカルだった。
すっかり、丸め込んだような形ながら、何とかヒカルの説得に成功した研究会一同は、
さすがに今日はヒカルの身体が持たないだろうということでそこで解散するこした。
誰もが「次こそはボク(オレ)が!」という野望を抱きながら。
研究会――真の名を『進藤ヒカル研究会』――が和谷のアパートのみならず、
大胆にも棋院の一室などで頻繁に行われるようになることは、その後の話。
END
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