光彩 16 - 20


(16)
緒方の体の下で、アキラはうめいた。
緒方はいつもより乱暴にアキラをあつかった。
アキラは緒方に責められながら、ヒカルを思った。
緒方がヒカルに何かするのではないかと、考えのまとまらない頭で考えていた。
いつもは冷めている緒方が、今日は熱くなっている。
自分とヒカルとのことが原因だとわかっていた。
都合のいいときだけ利用しているのは、緒方の方だと思った。
アキラが何をしようと我関せずのような顔をしておきながら。
普段、放っておいて、離れかけたら力で支配しようとしている。
ボクのことなど好きでも何でもないくせに・・・!
緒方さんは進藤を気に入っている。
その進藤にボクが近づいたから・・・。
とりとめのない考えが、次から次へ浮かんでは消えた。

「進藤のことでも考えているのか?」
強い力で顎を捕まれ、緒方の正面に向かされた。
アキラは緒方と見つめ合う形になった。
激しく突き上げられながらも、アキラは気丈に緒方を睨んだ。
「あいつは、こういったことは何にも知らなさそうだな。
可愛がって一から仕込んでやるのも楽しそうだ。」
アキラは、緒方を殴ろうと手を挙げた。
だが、簡単に手を捕まれ、そのまま押さえつけられた。
緒方は、ヒカルのことをわざと口にして、アキラをなぶった。
いつも冷静なアキラが、ムキになるのをおもしろがっているのだ。

「し・・・進藤に何かしたら・・・絶対に許さない・・・!」
アキラは、切れ切れの息の下から、そう緒方に言い放った。


(17)
今までになく緒方は熱くなっていた。
自分を睨み付けてくるアキラのあの瞳・・・。
背中を逆撫でされたような気がした。
ヒカルの名前を出すだけで、アキラの体がカッと熱くなる。
ゾクゾクした。
この玩具にはこんな遊び方があったのだ。
これが正しい方法だったのだ。
緒方は、アキラをなぶり続けた。
残酷に責める自分に酔っているのかもしれない。

しかし、アキラへの言葉とは裏腹に、
緒方は本気でヒカルをどうこうする気はなかった。
じゃれついてくる可愛い子犬。
可愛がりこそすれ、乱暴な目に遭わせる気はなかった。
優しく頭を撫で、好きなだけ甘やかしてやりたいと思った。

だが、すでに飼っているプライドの高い子猫が、その子犬に執心している。
子犬の方も自覚はしていないが、子猫に恋心を抱いている。
それは、緒方にはおもしろくないのだ。
おまけに子猫は、緒方になつかず、本気で爪をたててくる。

傷つけてやりたい。めちゃくちゃにしてやりたい。
加虐心がわいてくる。
一番効き目のある方法を考えた。

やはり、ヒカルを使うのが一番効果的だろう。


(18)
ヒカルはベッドの中で、緒方の言葉を反芻していた。
―もう答えはでている―
どう言う意味だろうか。
昨日も今日も、眠れないくらい考えているのに。
それでも、全然わからないのに。
「答えなんて、でてねぇよ。」
ヒカルは呟いた。

―君が好きだ―
不意に、アキラの告白を思い出した。
アキラの顔が浮かぶ。
まっすぐに自分を見つめる切れ長の瞳。
その視線にからめ取られたまま動けなくなった。
アキラの顔が間近にせまる。
唇が触れた。

ヒカルは唇をそっとなぞった。
アキラがふれた唇。
カッと体が熱くなった。
考えがまとまらない。頭が混乱してきた。
寝苦しい。
ヒカルは何度も寝返りをうったが、そのうちに、眠ってしまった。


夢の中にアキラが出てきた。
アキラのことを想いながら眠ったせいだろうか?
誰かが髪を撫でてくれたような気がしたが、
瞼が持ち上がらなかった。


(19)
アキラは夜が明ける前に緒方のマンションを出た。
一分でも一秒でも早く、そこから離れたかった。
走りたかったが、体に力が入らない。
それでも、緒方と一緒にいたくなかった。
直前まで責め苛まれていた。
行為の後、緒方はアキラを清めてくれた。
自分を責めた男とは思えぬほど優しい手つきだった。
緒方がシャワーを浴びている間に飛び出した。

足がもつれる。
息が止まりそうだ。
アキラはその場にへたりこんでしまった。

膝に顔を埋めた。
悔し涙があふれた。
緒方はまるで自分を玩具のように扱った。
アキラの人格を無視して、好きなように弄んだのだ。
ヒカルをダシにして、自分を苛んだ。
アキラは、ヒカルの名前を出されて、冷静ではいられなかった。
緒方が、そんな自分を面白がっていたのはわかっていた。
淫乱な奴め!
ヒカルに、お前は似合わない!
何度も繰り返し耳元で囁かれた。

緒方が全部悪いわけではない。わかっている。
自分からあの場所へ行ったのだ。
最初にアキラ自身が望んだことだ。
そして、緒方はアキラを抱いただけだ。
やり方はともかくとしても・・・。

ヒカルを恋しく思いながら、緒方の手も離さなかった。
ずるい自分が悪いのだ。
何より、ヒカルを裏切った自分が悲しい。
ヒカルはアキラのことを精一杯受け止めようとしてくれていたのに。
自分は己の感情を持て余して、緒方の所へ逃げたのだ。
アキラは、自分が情けなく、浅ましい人間だと思った。

ヒカルにあいたいと思った。ヒカルの笑顔が見たかった。
だが、ヒカルにあうことはできない。
こんな自分を見せたくなかった。


(20)
いつもの碁会所で、ヒカルはアキラを待った。
アキラはこなかった。
どうしたのだろうか?
アキラとは毎日あっているわけではなかった。
それなのに・・・。
ヒカルは理由もなく不安になった。
その漠然とした不安を払うように、首を振った。
アキラにだって、いろいろと事情があるのだ。
自分だって、アキラ以外の友人とのつきあいがあるじゃないか。
自分に言い聞かせた。


だが、次の日も、その次の日もアキラは来なかった。
アキラとヒカルの指定席。
そこに、いつものヒカルらしくもなく、しょんぼりと座っている。
その姿に、碁会所の常連たちも声をかけかねていた。

さすがに一週間も会えないと、アキラに何かあったのではないかと考えた。
アキラに地方のイベントの仕事は入っていない。
この間あったときは、そう言っていた。
急な仕事でも入ったのだろうか?
でも・・・。
悪い想像が次々浮かぶ。
ヒカルはあわててアキラの部屋へ向かった。
勉強のために、アキラが一人で借りているアパートだ。
碁会所からそう遠くはない。
インターフォンを何度も押した。返事がない。
ドアをドンドンと叩いてみたが、人のいる気配はない。

やっぱり、病気か何かで自宅の方に戻っているのかもしれない。
心臓がつぶれそうになるくらい必死で走った。
ようやく辿り着いた。
インターフォンから、誰何する声が聞こえてきた。
息を切らせながら名乗った。



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