眩暈 16 - 20
(16)
しかしその直後、ヒカルは軽々しく頷いた事を後悔する事になった。
指とは比べ物にならない痛みにヒカルは再び大声で泣き出して、猛然と暴れ始めた。
必死にそれを抑えつけながらも、アキラは今まで経験した事のない、ヒカルの中の熱さと、
ペニスを締め付けられる快感に理性が吹き飛び、ヒカルの体を思いやる事も忘れ激しく腰を使い始めた。
「ああっ…しん、どう…進藤……ン、ウッ…すごく…気持ち、いい…」
泣きじゃくるヒカルの名を呼んで、アキラは喘ぎながら行為にのめり込んでいった。
「クッ…んぅ…うっ、ああっ!」
「あっ…アァ…はぁ、はぁ……はぁ…」
奥に熱いものが広がっていく感触に、ヒカルはやっと終わったのか、と体から力を抜いた。
指で奥を刺激されたときに立ち上がりかけていたペニスは、挿入時の激痛ですでに萎えて
しまっていたので、ヒカルは早くこの時間が終わってくれる事を望んでいた。
しかし、いつまで経ってもアキラはヒカルから出ていこうとしない。荒く息をついたまま、
ヒカルを凝視していたが、やがて大きく息をつくと再び腰を動かし始めた。
「あっ、なに…塔矢!ちょ…待って、もう…マジ勘弁…って…やだ、ン―――!」
「ゴメン、進藤…でも、ボク…んっ、まだ…もうちょっと…」
キスをしてヒカルの反抗を封じる。そうして更に動きを早めていくアキラに、ヒカルの言葉は
届かなかった。普段は大人びているアキラも、やはり未熟な少年なのだった。始めて経験する
快楽に溺れ、セックスと言う行為にすっかり没頭してしまった。
その後、何度かヒカルの中に射精して気が済んだアキラが体を離した時にはすでにヒカルは
失神していた。後始末をして、寝息を立て始めたヒカルの体を抱き締めながら、
アキラは嬉しそうに微笑んだ。ヒカルの耳元で、まるで言い聞かせるように呟く。
「これで、キミはボクのものだ。ボクだけのものだ…」
(17)
その日から、アキラの態度が豹変した。
会えば、所構わずヒカルを求めてきたし、ヒカルに対して異常な独占欲を見せるようになった。
今まで抑えていたものが、セックスをきっかけに一気に噴出したかのようだった。
ヒカルが他の友人との付き合いでアキラとの約束に少しでも遅刻したり反古にしたりすると、
アキラはまるでレイプするかのようにヒカルを犯した。頬を叩いたり、手足を縛ったりもした。
ヒカルはそれを泣きながら受けるだけで、拒む事はしなかった。拒めなかった。
行為が終わって後始末をしたアキラは、いつもヒカルを優しく抱き締めるのだ。
そして、泣きそうに顔を歪めながら何度も何度も謝るのだった。
「ごめん、ごめん進藤…許してくれ。酷い事をした…でも、好きなんだ…好きなんだ」
甘えるように頭を摺り寄せてくるアキラを見ると、ヒカルは可哀想になって何も言えなくなる。
「いいよ、オレも好きだよ塔矢。もういいから…」
そう言うと、アキラは嬉しそうに笑って、啄ばむようにキスをしてくる。そんなアキラが可愛いかった。
だが、それからもアキラの暴力まがいのセックスと独占欲から発する嫉妬は繰り返された。
それでもヒカルはアキラを突き放す事は出来なかった。優しいアキラが本物のアキラだと、
ヒカルは信じていた。今はちょっと気持ちがすれ違ってしまっているだけなのだと。
それに、ヒカルは分かっていた。どんな事があっても自分はアキラから逃げる事は出来ないのだろう、と。
アキラの顔を見ると、いつもいつも眩暈がするのだ。熱くて、胸が締め付けられるような眩暈。
この眩暈のせいで、いつだってアキラに流されてしまう。アキラを拒めず、受け入れてしまう。
自覚はあってもヒカルにはどうする事もできない。そして、アキラもまたその通りだった。
ヒカルと一緒にいると眩暈がして、自分を忘れてしまうのだ。だがそれに逆らう事は出来なかった。
二人で、同じ眩暈に囚われている…。
(18)
アキラに腕を引かれながら漠然とした思考を持て余していたヒカルが塔矢邸に到着したのは間もなくの事だった。
相変わらず大きい家だな、ときょろきょろ辺りを見回しながらヒカルは純和風の門を潜り、玄関に招き入れられる。
人の気配がしない。やはり家族は不在のようだった。アキラがヒカルを自宅に招く時はいつもこうだ。
「…いないのか?塔矢先生とお母さん」
「ああ、また中国だ。今回は母も着いて行ったし。まるでハネムーン気分なんだろう」
そう言いながらアキラが一瞬だけ見せた寂しそうな表情を、ヒカルは見逃さなかった。
訝るような視線を寄越すヒカルをアキラは再び強引に奥へ引っ張っていく。
「ほら、おいでよ。お風呂入るだろう?いつまでもそのままじゃ、キミも気分が悪いだろうし」
「ちょっ…待てよ、引っ張んなって」
無理矢理浴室へ連れこまれる。檜作り浴槽にはまだ湯は張られていなかった。
「今からお湯を張るからちょっと時間がかかるけど…先にシャワーをあびてしまおうか?」
広い脱衣所で、アキラはヒカルのダッフルコートを脱がしていく。ヒカルはアキラの手を振り解こうと慌てた。
「いっ、いいよ!自分で出来るって…塔矢はあっち行ってていいから!」
そんなヒカルの様子が気に入らなかったらしい。アキラは憮然としてコートを脱いだだけのヒカルを
浴室へ連れ込んで壁際にヒカルを追い詰めると、シャワーを手にとって頭から湯を浴びせ掛けた。
「うわっ!なっ、何すんだよ塔矢!ちょっ、ヤメロったら!」
「あーあ、濡れちゃったね。下着だけじゃなく、全部洗濯しないと」
くすくすと笑いながらヒカルに湯を浴びせつづけるアキラも服を着たままだった。
壊れたように笑い続けるアキラの顔を、ヒカルは呆然とした表情で見つめていた。
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シャワーを壁に掛けて戻すと、アキラは濡れたヒカルのトレーナーの上から弄るように手を這わせる。
ヒカルは纏わりつく服の感触とアキラの不気味な笑いに絶句するばかりで、されるがままになっている。
「脱がなきゃお風呂入れないね…脱がせてあげるよ」
水で重くなったトレーナーをたくし上げるとヒカルの可愛らしい乳首が現われる。それに音を立てて軽く口付け、
そのまま一気に脱がせてしまう。濡れた髪を乱したヒカルが「ぷはっ」と大きく息を吐くと、アキラはその唇にもキスをした。
ヒカルはしばらく逡巡したが、やがてそれに応えるように口を開くとアキラの舌が待ってましたとばかりに入ってくる。
深く唇を貪りながら、アキラは自分の服も取り去り、濡れるのも構わずタイルの上に放り投げた。
唇を離してアキラはズボンも脱ぎ去ると、今度はヒカルのズボンに手をかける。濡れて脱がしにくくなっているそれを下着ごと
脱がせてしまう。ヒカルの足にはまだソックスが残っていたが、アキラはからかうように笑いながら言った。
「こっちの方が可愛いから、このままでいいよね?」
そうして肌を擦りつけるように合わせると、ヒカルはそれに反応して僅かに息を詰めた。
アキラがシャワーのコックを捻ると、二人の頭上から温かい湯が降り注ぐ。口に水が入る事も気にせずに再び口付けた。
僅かに瞳を潤ませ見つめてくるヒカルの視線を避けるように、アキラはヒカルの体を反転させて背中から抱き締めると、
今度は後ろからヒカルの中心に手を伸ばしてきた。嬲るような手の動きに、ヒカルは喉から引きつれたような声を出した。
「ヒッ…、ンッ…ウ…―――んうぅ…ふ、ぅ…」
ヒカルは必死に声を抑えようとするが、僅かに洩れる嬌声は浴室に大きく響き渡ってしまう。同時にくちゅくちゅと粘着質な
水音も聞こえ出してくる。我知らず足が震えてしまい、アキラに支えられていなければ立っている事もままならない。
「アッ、んぁ…、やぁ……とっ、塔矢ぁ…んああっ!」
ふいに亀頭に爪を立てられる。その刺激にヒカルは腰を震わせてアキラの掌に射精をした。
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支えられていた力が弱まり、ヒカルは湯で僅かに温められた床のタイルの上に座り込んでしまった。
アキラもその場に腰を下ろして、ヒカルを自分の膝の上に乗せるようにして後ろから抱え上げる。
そうしながらヒカルの臀部を弄り、そのアヌスにヒカルの出した精液で濡れた指を塗りこめるように弄繰り回す。
「あっ…あぁ―――ひゃぁあ、ン……ぁん、やぁ…」
焦らすようなアキラの指に翻弄され、ヒカルは僅かに浮かせた細い腰を無意識に揺らめかせた。
「なに?挿れて欲しいの?」
白々しいアキラの問いにも、ヒカルはまともに答える事ができずに、訳も分からずいやいやするように首を振った。
「嫌?じゃあもう止める?進藤…」
アキラは揶揄しながらも、ヒカルのアヌスにつぷりと指の第一関節まで挿れては出す行為を繰り返し、更にヒカルを煽る。
「ンッ―――…ああっ、ちがっ……ハァ…ん…、塔矢ぁ…―――ひぅ…」
アキラによって快楽に慣らされたそこは、早く決定的な刺激が欲しくてアキラの指を誘うようにひくついている。
くつくつと喉の奥で笑うアキラは、何を思いついたのかヒカルを後ろ抱きにしたまま、体の方向を変える。
すぐ前には、大きな姿見。背後からアキラに抱え上げられ、大きく開かされた足の付け根には、再び勃ち上がりかけて
震えているヒカル自身、そしてアキラの指に弄くられて喜ぶように反応しているその奥。
いまだ履かされたままの靴下が乱れた姿を幼く見せ、逆にそのアンバランスがヒカルを殊更卑猥に映していた。
自分のあまりにはしたないその格好に、ヒカルは思わず目をそらそうとしたが、アキラに顎を捕まえられてしまう。
「ほら、もっとよく見て進藤。全部映ってるよ、キミの淫乱なカッコ…」
「やぁ…ヤダぁ!あっ…――――はぁ…んぅ……やっ、塔やぁ…」
更に笑みを深くするアキラに、ヒカルは弱々しく抗議するが、それさえも誘っているような喘ぎ声にしかならなかった。
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