再生 16 - 20


(16)
怒って帰ったはずのヒカルが、再び戻ってきた。
どうしたんだ?と緒方が問いかける前に、ヒカルの方が先に口を開いた。
「先生…さっきはゴメン!オレ、それだけ言いに来たんだ。」
「じゃあ」と、言って背中を向けたヒカルの腕を掴んだ。
拗ねているような…照れているような…ヒカルの不器用な優しさが、とても愛しかった。
気がつけば、ヒカルを抱きしめていた。
腕の中にヒカルのぬくもりを感じる。
ヒカルが緒方から逃れようと身を捩った。
緒方の突然の行動に戸惑っているようだ。
実際、緒方自身もなぜこんな事をしたのかわからない。
ただ、暫くこのぬくもりを感じていたかった。

ヒカルは、いつの間にか抵抗をやめていた。
体の力を抜き、緒方にされるがままになっている。
「先生……」
ヒカルの呟きが聞こえた。
自分への問いかけだったのだろうか?
緒方は返事をしなかったし、ヒカルもそれ以上は何も言わなかった。

どれくらい時間がたったのか。
ヒカルは、いつの間にか緒方の胸に体を預けていた。
母親の胸に抱かれる赤ん坊の様だった。
瞼は閉じられ、あの印象的な大きな瞳を隠していた。
緒方はヒカルの顎を持ち上げ、ゆっくりと唇を重ねた。


(17)
ヒカルの目が大きく見開かれた。
信じられなかった。
緒方は、アキラを愛していたのではないのか?
それなのに…どうして?
顔をずらそうとしたが、緒方に顎を掴まれているため、全く動かせない。
緒方の舌がヒカルの中に侵入した。
ヒカルはパニックになった。体を捻ろうとしたが、出来なかった。
緒方の前に、ヒカルはただの非力な子供だった。
涙が出てきた。
漸く、緒方の唇が離れた。緒方は繊細な長い指先で、ヒカルの頬を伝う涙を拭った。
「せんせ……ど…して…?」
しゃくり上げながら、ヒカルは緒方に問いかけた。


(18)
どうして?と聞かれても、緒方にも答えられない。
涙に濡れた黒い大きな瞳に、自分の姿が映っている。
困惑した男の顔がそこにあった。
自分はアキラを愛して…いる。
それは勘違いなのか?
ただの子供っぽい独占欲だったのだろうか?
では、ヒカルのことは?
可愛いと思ってはいる。それは…恋愛とは違うと思う…が…。
それなら、どうして?
自分の気持ちがわからなかった。
わかっているのは、自分がヒカルとアキラを傷つけたということだけだった。

「すまなかった……」
それだけしか言えなかった。


(19)
玄関の方で、かすかな物音が聞こえたような気がした。
ドアの向こうに人の気配を感じた。
「…?何方ですか?」
アキラは訝しげに問いかけたが、返事はない。
悪戯だろうか?部屋の奥に引き返そうとして、ハッとした。
「もしかして…進藤?」
「………塔矢…」
小さく返事が返ってきた。
慌てて、鍵とチェーンを外した。

ドアを開けると、ヒカルが頼りなげな表情でそこに立っていた。
「どうしたんだ?呼び鈴を押せばいいのに。」
「………ごめん…」
ヒカルがしょんぼりと項垂れた。
アキラは別にヒカルを責めているわけではないのだけれど……。
ヒカルの様子は明らかに変だった。
「どうしたんだ?」
ヒカルを部屋の中に引っ張りながら、俯いている顔を覗き込んだ。
ヒカルは、アキラの視線を避けるように横を向いた。
「やっぱり…帰る…」
ヒカルの瞳には、涙が滲んでいた。


(20)
ヒカルは、無意識のうちにアキラのアパートに来ていたらしい。
部屋の灯りはついている。
呼び鈴に手を伸ばしかけて…寸前でやめた。
アキラに会いたいと思ったが、どんな顔をすればいいのかわからない。
それに、自分は今どんな顔をしているのだろうか。
会いたいのに会えない――――暫くそこで逡巡していた。
「何方ですか?」
中から誰何する声が聞こえた。
アキラだ!ヒカルは、とっさに返事をすることが出来なかった。
どうしよう……。
「もしかして…進藤?」
どうして…アキラにはわかるんだろうか…?
ヒカルは、とても泣きたい気持ちになった。



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