しじま 16 - 20


(16)
すぐ近くで名前を呼ばれた。
ボクはいつのまにか目を強くつむっていたらしい。
まぶたを開くと、進藤が目のまえにいた。
「入れていいか?」
ボクのふとももに、進藤の硬くなったそれが当たっている。温かい液体が肌のうえを流れて
いくのを感じた。
かすかにうなずいた次の瞬間、覚えのある激痛が全身をつらぬいた。
「とうやっ……力を抜いて……!」
無理だ。やっぱり痛い。ここはもともと受け入れる器官じゃない。だから和谷だろうと進藤
だろうと、痛みは変わらない。
ふいに排泄感がした。進藤が出て行こうとしている。
ボクはそうはさせないと、足で進藤の身体を固定した。
「いい、から……」
「でもちょっと入れただけでも痛いんだろ? もう一回ほぐしてから……」
「いいから……!!」
進藤はうん、と言うとボクのものをしごきはじめた。すると痛みで萎えていたそこが、また
感度をとりもどした。
少しずつ少しずつ、用心深く進藤は腰を進めてくる。
無意識にそれを押し戻そうとするのを、意識してボクはそうならないようにした。
だけど進藤自身がすべて収まるまで、ずいぶん時間がかかってしまった。
進藤が息を吐き出した。
「入った、ぜんぶ」
ボクはその言葉をたしかめるように、おそるおそる腹部に手をやった。
異物感があるところをなでる。
――――ここに進藤がいるのか。
ぐっとそこを押してみる。するとそれに連動してか、ボクのなかが進藤を締めつけるのが、
自分でもわかった。
動いていいのに、進藤はわずかも身じろぎしない。
そうか、なじませてくれているんだ。


(17)
進藤は抱くのは初めてのはずなのに、とても余裕があるように見える。
心のどこかで、進藤をリードしようとボクは思ってたんだ。
結果的には、主導権はいつもと変わらず進藤にある。
「とうや」
進藤が汗で額にはりついた前髪をはらってくれた。
それだけでボクはこの上ない幸福を感じる。
「オレ、おまえのその表情が好きだ」
「……え?」
「おまえ、オレのことが好きでたまらないって顔してる」
そのとおりだ、進藤。ボクはきみが切なくて苦しくなるほど好きでたまらないんだ。
そんな想いが顔に出ないはずがないじゃないか。
「好きだ、しんどうが、好きだ」
我ながら切羽詰った声だ。「うん」としんどうは言う。ここまでは今までと同じだった。
だけど続きがあった。
「オレも好きだよ、とうや」
その言葉をボクはかみしめた。
進藤を受け入れて痛みを訴えているそこが、誘うようにうごめいた。
びっくりした顔をして、でもすぐに進藤はほほえんだ。
今日は進藤の笑顔がたくさん見られてうれしい。
「オレが初めて和谷としたときさ、いつもはお酒だったのに催淫剤のまされて、わけわかん
ないうちにやられちゃったんだ」
いきなりなにを言い出すんだ。こうしてボクとしているのに、どうして和谷が出てくるんだ。
しかもきみの初めてのときのことを言い出すなんて、無神経にもほどがある。
「おまえと初めてしたときだって、やっぱり無理矢理でさ」
……それにはボクはなにも言えない。
「だからさ、こうして初めてのおまえが、オレを受け入れてくれるのが、すげぇうれしい」
なんてあけはなしに言うんだ。本当にボクはきみにはかなわない。
動きやすいように、ボクは進藤の腰を押さえていた足を外した。


(18)
進藤がゆるやかに動き出した。
やっぱり痛い! とくに引くとき、内臓まで引きずり出されるようだ。
「悲鳴、あげていいんだよ、とうや……でないとオレ、加減がわかんない……」
わずかに理性を残した声色だった。
きっともう頭のなかは熱に侵食されかかっていると思う。
ボクがいつもそうなように。
それでも進藤はなんとかボクを気遣おうとしてくれている。
「へいきだから……」
「……ん、とうやぁ……っ」
進藤が行為に没頭しだした。ボクの口からはあいかわらず喘ぎも呻きも出されない。
息だけが想いをのせて、吐き出されていく。
「とうや、とうや……!」
進藤は眉根を寄せて、さらに激しくボクを突き上げてくる。
痛みとはちがったものがボクを浸しはじめる。でも快感と呼べるシロモノではない。
でも進藤の色っぽい顔を見ているだけで十分だ。
ボクは進藤とともに吐精した。
行為によってではなく、進藤の顔を見て、ボクはイったんだ。
「とうや……」
汗ばんだ肌が触れる。特有の汗臭さのなかに、甘いものがまじっている気がした。
息をととのえた進藤がボクのうえから起き上がった。
そのお腹はボクの放ったもので白く濡れていた。
進藤はティッシュでそれをぬぐいとる。それからつながっているところに当てて、ボクの中
から抜け出ていった。
進藤がいなくなったそこは、空っぽになった気がした。
まるで大切な身体の一部を無くしてしまったかのように。
「やっぱり血が出てる。痛かったろ?」
「……気にしなくていい……それより……」
ボクは身体をずらして進藤の手元をのぞきこんだ。


(19)
進藤はいぶかしそうにボクを見る。
「なんだよ、塔矢」
「見たい」
「なにを?」
ボクはもう外されて、ティッシュにつつまれたコンドームを指差した。
「きみがどのくらい出したのか、見たい」
みるみるうちに進藤の顔が耳まで赤くなっていく。
恥ずかしがっているのか?
「し、信じらんねぇ! 変なこと言うなよ、このバカッ」
……怒っているのか。なぜだ?
「見たっていいじゃないか。ボクはきみがどれくらい出したのか知りたいんだ」 
「知らなくていいんだよっ、そんなことは!」
ボクの手を振り払い、進藤は大量のティッシュに精液をしみこませていった。
白い山が枕元に出来上がる。
「もったいないな」
「おまえが悪いんだろ! ったく……」
進藤がキスしてきた。首筋から肩におりて、背中のほうにまわっていく。
乳首をいじられながら、ふとんの上にうつぶせにされた。
ボクは後ろに手をやって、進藤のものに触れた。すでにゴムがしてあった。いつのまに?
それにそれはすでに硬くなっていた。
「もうするのか? かまわないけど、もっと時間を置いてからにしたほうが良くないか?」
「おまえ、いつもオレがそう言っても、きいてくれないじゃん」
ボクの尻に、進藤が腰をすりつけてくる。
「塔矢、入るぜ」
声をかけられたのと同時に、下肢が重くなった。
二度目は痛みと、うずきを感じた。突き進められると、身体が前へとずれていく。
だからシーツをつかんで位置を固定した。だけどそうすると衝撃が倍以上になった気がした。
それでも切り裂かれるような痛みはなかった。
どころか、今まで感じたことのないものがせり上がってきた。


(20)
艶声がした。それはボクのものだった。痛みが快楽にすりかわりはじめたんだ。
「とうや、んなか、すごく熱くて……気持ちいい……おまえらがしたがるの、わかる……」
その言葉にボクの胸に手をまわしていた進藤を思い切りつねった。
「いてぇ!」
進藤が文句を言うまえにボクは言った。
「二度と! おまえら、なんて言うなっ。もう和谷とボクを一緒にするな!」
声をつまらせるのがわかった。そしてすぐに小さくゴメン、と聞こえてきた。
だけど進藤自身が落ち込むことはなかった。
ふたたびボクのなかを進藤は味わいはじめた。
そしてボクも進藤を味わった。
ボクたちの声が明るい部屋に満ちていた。

一つわかった。後ろから入れられるのは、とても疲れるということが。
進藤としたのは三回。最後はコンドームをつけなかった。
直接、進藤の体温が伝わってきて、それだけでボクは昂奮した。
残念だったのは進藤の放ったものが、そんなに多くなかったことだ。
ボクはたくさん自分のなかに欲しかった。たとえあとで地獄が待っていようとも。
「……するのって、メチャクチャ体力使うな。されるよりも疲れた」
「されるほうが疲れたよ。身体に負担がかかる」
「わかったらもっと大事にしてくれよ」
「……ボクが今まで、きみを大事にしていなかったとでも?」
進藤は首を振ると、毛布のなかに顔をうずめた。くぐもった声が聞こえてきた。
「オレもおまえを大事にする」
「え?」
聞き違えたんじゃないだろうかと思ってしまった。
顔を見たい。手を毛布にさしこんで、その頬を撫でる。進藤はぴくりとした。
「本当におまえの手って冷たいのな」
ボクはなんど進藤に、心が凍るような思いをさせられただろう。
だけどなんど進藤に、こうして手とともに心を温められただろう。



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