失着点 16 - 20
(16)
先に腸内に放出したもののために、腸壁がいくらか潤い、最初の時のような
激痛はなかった。だが相応の質量のものが狭道を行き来するだけでも
絶望的な苦痛をヒカルに与えた。
その苦しみにさえもう声も発せず、全身に脂汗を張り付けてぐったりと
なっているヒカルを見て初めて不安になったのか、アキラは動くのを止めた。
「…辛そうだね…。」
アキラは優しくヒカルの頬を撫でると唇を吸い、額、首筋とキスを運び
もう一度胸元を愛撫し始めた。左手を下腹部へと這わし、痛みの為に
萎縮しているヒカル自身をそっと握る。
親指で先端を軽く刺激する。
ピクリ、とヒカルはわずかに反応した。だが、苦しさの方が大きすぎて
多少の刺激ではもう快感は感じないと思った。
それでもアキラの柔らかな抱擁が乳首と局部に施され続けていると
断ち切れたはずの回路が少しずつ修復されていくようだった。
肛門に異物が挿入されている状態が同じ刺激に対して感覚を敏感に
させていることにも気がついて来た。
前立腺という言葉すらヒカルはまだ、知らない。
が、ここへ来てアキラの優しさに触れた事が何より大きかったのだろう。
「う…ん、んんっ」
ヒカルの吐息に甘い声が混じるようになった。
アキラの手の中で、ヒカルが熱を持ち始めた。
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アキラもヒカルの体の変化を感じ取るとさらに愛撫を念入りに行った。
「あ…、んんっ」
アキラの手の中で膨らみ始めたものはアキラが扱き始めたことでさらに
硬さを増し、登頂への階段を登り始める。
アキラの手をヒカルの雫が濡らす。
そのタイミングを待っていたかのように再びアキラが腰を動かし始めた。
「ああ…!!」
痛かった。痛かったが、それだけではないものをヒカルにもたらした。
狭道はアキラの雫によって潤いが損なわれる事無く、
潤滑な動きをアキラに許した。
「は…あ、ああっ!」
前と深部を同時に揺さぶられ、ヒカルは今まで出会った事がなかった質の
快感に翻弄され続けた。
「な…に、こん…な、」
ヒカルの呼吸が次第に荒さを増し体のあちこちがほんのりと紅く色付く。
体芯から根こそぎどこかへ持っていかれてしまいそうだった。
アキラの呼吸も荒く早まり動きも激しさを増していく。
「と…や、もう…」
じりじりと階段を登り始め、その速度が速まり、ヒカルはそれを
アキラに伝えた。
「はっきり言わないとだめだよ…。」
アキラはヒカルの唇に自分の唇を重ねながら互いの熱い吐息の中で話す。
「イクって、ちゃんと言わないと…ね。」
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アキラも爆発寸前だった。激しく動く事はそれだけ強い快感をアキラ自身に
与える事になるのだ。
ヒカルももういつ弾けるか分からないところに追い詰められていた。
だがアキラの指示する言葉を口にするのにはためらいがあった。
今までアキラに対し、劣情を抱く事は正直何度かあった。
自慰行為の中で常にアキラを組み伏して犯すのは自分であった。
アキラが激しい性格で男らしいことは良く分かっていたが、容姿からくる
ものもあって、心のどこかで女性的な部分を描いていた。
そのアキラに、実際ここまで自分が女性として扱われ、
さらに屈辱的な言葉を求められている。
ヒカルは唇を噛み締めた。それには従いたくない。
アキラは直感的にヒカルの意志を読み取り口の端で嬉しそうに笑った。
「いいよ、…進藤。君は本当に可愛いね…。」
アキラはヒカルの深部を探り、ある部分を狙ってかきえぐる。
前の部分ヘ与える刺激と合わせてヒカルをさらに追い立てていく。
「は…ああっ!」
あらゆる思考が吹き飛び、何も考える事が出来なくなっていた。
あるとは思わなかったさらに深い快感に、半分気が狂いそうだった。
…アキラに逆らう事など、自分にはできそうになかった。
「…ク…」
「何?」
「イク…よ、」
ヒカルは胸を大きくのけぞらした。
「イク…!イクっ…!んんっ…!!ああーー!!」
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嗚咽が混じった、砂糖菓子のように甘いヒカルの悲鳴はアキラを十分
満足させた。
「くっ…ううんんっ!!」
アキラもまた、アゴをせり上げ激しく痙攣を起こしたように打ち震え、
3〜4度その状態を繰り返すとヒカルの上に倒れこんだ。
ほとんど目の焦点を失っているヒカルの顔にアキラの汗と黒髪が落ちる。
アキラ自身がビクリと痙攣するとヒカルの狭道がその刺激で痙攣し、
それによって狭道が狭まるとそれに反応してアキラ自身が痙攣する。
二人の体はそうしてしばらくの間一身同体で絶頂感を共有した。
互いの呻き声が呼応するように同調し切なく響きあう。
接合した部分はあらゆる体液が溢れて混じり合い濡れそぼっていた。
そんな状態でもなおもアキラはヒカル自身を扱き続け、
硬さが少しでも残っている間はヒカルの中で動き続けた。
行為を名残り惜しむように。
それに対して意識を失いかけているヒカルはただピクンピクンと物体のように
神経的な反射を繰り返していた。
ヒカル自身が起き上がる兆しは、もうなかった。
動きを止め、ようやく手を離したアキラはヒカルの耳元に唇を寄せて囁いた。
「大好きだよ、…進藤。愛してる…ヒカル…。」
夢と悪夢の境界線上のような渾沌とした意識の中で、ヒカルはそれを聞いた。
(20)
アキラに抱き支えられるようにしてヒカルはシャワーを浴びた。
途中、アキラはシャワーのお湯が口の中に入って来るのもかまわず
ヒカルにキスを求めてきた。
ヒカルが黙ってされるがままにしていたらそのまま
バスルームの壁にヒカルを押し付け、まだ足りないと言うように唇を
貪りながらヒカルの片足を持ち上げて股間に身体を入れて来た。
「…塔矢!」
視線を床に落としたままさすがにヒカルがぶ然として声を荒げると、
「…冗談だよ。…怒らないで。…ごめん…。」
と謝り、身体を離した。おそらく本気だっただろうとヒカルは思った。
バスルームを出るとアキラは自分の身体を拭くのもそこそこに
血の混じった体液で汚れたベッドのシーツを手早く新しいものに替え、
ヒカルを横たわらせた。
そしてキッチンの方からミネラルウォーターと何か錠剤らしきものを
持って来て、それらを口に含むとヒカルに口移しで飲ませた。
「…何?」
「痛み止めだよ。たぶん、しばらくは続くから…。」
確かに、時間を追う毎にその箇所が燃えるように熱く疼いて来ていた。
シャワーの前に一度激しく脱水症状を起こしてトイレに入ったのだが、
泣きたくなるくらい痛みが激しかった。
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