それいけ☆ヒカルたん 16 - 20
(16)
「ごめん」
若゙キンマンの言葉にヒカルたんは驚いた。
「軽蔑してるよね。憎いと思ってるよね。・・・でもボクにはこんな形でしか、キミを手に入
れる方法が思いつかなかったんだ」
若゙キンマンはヒカルたんに頬を寄せた。若゙キンマンが涙をこらえているのが分かった。
ヒカルたんは泣くのをやめて、若゙キンマンの話を聞き入った。
「キミは明るくて元気で、皆から好かれるヒーローだ。ボクは戦う度にどんどんパワーア
ップするキミに、正直困ったよ」
ヒカルたんを抱きしめる腕に力がはいる。
「ボクは強かった。キミよりもずっとずっと強かった。でもそれが災いして皆から恐れら
れた。仲間を作るどころか、町の人からも恐れられ、ボクは人里はなれたこの城でたった
一人で生きていくしかなかった」
若゙キンマンは、今にも消えてしまいそうなくらい寂しい口調で語った。
「最初にキミを見たときはなんでこんなヤツがと思ったよ。力は全然ないし、バカだし、
無駄に元気だし。でも明るくて優しくて皆から好かれてて・・・、だんだん羨ましくなった。
なんでも持っているはずのボクが、欲しくても手に入らなかったものをなんでキミは手に
いれることができたんだろうって・・・」
泣いていることがばれないように若゙キンマンはヒカルたんから離れると、部屋にあるコレ
クションを一つ一つ見つめる。
「最初はどうすればキミのようになれるか、研究するつもりだった。キミの行動を一部始
終観察して記録し、研究する。・・・でもそうしているうちに好きになった」
大きなスクリーンの前に若゙キンマンが立つ。スクリーンにはヒカルたんの笑顔がアップで
映し出されていた。それを愛しそうに見つめる。
「いつのまにかボクは、どうすればこの笑顔を独り占めできるか、そればかりを考えてい
たよ」
(17)
若゙キンマンの告白にヒカルたんは動揺した。
若゙キンマンの残酷で卑劣な性格は生まれもってのものではなく、今までの悪事は孤独と寂
寥感が昂じて及んだものだと知ったからだ。
しかし若゙キンマンからの愛の告白は、ヒカルたんを更に悩ませた。
今まで若゙キンマンが自分に執着するのは、単なる体が目的とでしか思っていなかった。
町のスーパーヒーローにそのような行為をすることこそ、最大の屈辱になると若゙キンマン
が豪語していたからだ。
だからこそ、ヒカルたんは屈することなく立ち向かってきた。例え仲間が傷つけられても、
町の人が被害にあっても、妥協せずに戦った。それが町の平和を守るための最善の一手だ
と信じていたからだ。
だが疑問もあった。町を守るヒーローはヒカルたんだけでなく、トーマスや佐為という強
力な味方だっている。なのにどうして自分だけがこんな目に合わなければならないのか、
怖くて眠れない日もあった。
それなのに若゙キンマンから愛されていると知った途端、心優しいヒーローゆえの悲しい性
なのか、若゙キンマンを憐れむと同時にひどく悲しくなった。
そしてどんな卑劣なことができても、ヒカルたんの心まで奪うことはできなかったことに
心を打たれたヒカルたんは、今まで得られなかった愛情を自分が与えることで、若゙キンマ
ンの心の隙間を埋めてあげようと考えた。
(18)
「おまえって、バカだよな」
ヒカルたんは口を開く。
「そんなにオレのこと好きなら、素直に好きだって言えばよかったんだよ」
ヒカルたんは重い体を起こすと、ゆっくり若゙キンマンに近づいた。
「言えるわけないだろう。・・・だってボクは皆から嫌われて、恐れられて・・・ずっと一人ぼ
っちだたんだぞ」
ヒカルたんは涙をこらえる若゙キンマンに抱きついた。体が悲しみで震えているのがわかる。
「オレだって、町の皆をおまえから守るため、毎日毎日佐為と特訓してたんだ。おまえの
ことずっと考えて・・・」
ヒカルたんは若゙キンマンの目を見つめて言った。
「もう、こんなバカなことはやめてさ、オレと一緒に町の安全を守ろう。オレにはトーマ
スってパートナーもいるんだけどさ、ちょっと頼りなくて困ってたし」
ヒカルたんは精一杯笑顔を作る。それにつられて若゙キンマンも笑顔を作ってみた。
「・・・痛い」
若゙キンマンはちょっと引きつった笑顔になった。
「ずいぶんと長い間笑っていなかったから、顔が痛いよ」
ヒカルたんはその言葉に思わず笑った。
(19)
「大丈夫か、ヒカルたーん!!」
ドアをものすごい勢いで蹴破ったトーマスと佐為が現れる。
そこには、拘束具をつけられた裸のヒカルたんが若゙キンマンに抱かれていた。
しかし二人は見向きもせずに抱擁を交わしている。トーマスの怒りはピークに達した。
「もう今日という今日は許さねェぞ、このおかっぱがぁぁぁあーっ!!」
トーマスは勢いよく突進する。しかし佐為は二人の異様な雰囲気を感じとり、トーマスを
止めた。
「ヒカルたん、何があったのですか?」
佐為のその言葉にヒカルたんは振り向くと、必死に頼み込んだ。
「オレ達、和解したんだ。・・・でさ、佐為。若゙キンマンをうちに置いてあげることってで
きないかな?」
ヒカルたんのその言葉に、トーマスは怒鳴った。
「あぁ? おまえ何言ってんだ! 今までそいつにどんだけ酷い目に合わされてきたと思
ってんだ。こっちは命を何度も落としそうになったんだぞ。それともなにか? やられち
ゃって情でも移ったのか?」
ヒカルたんはその言葉に俯いた。しかしそれでも毅然とした態度で訴えた。
「そんなことない。確かにさっき変な薬飲まされたけど。でも、これはオレの本心だ。ウ
ソなんかじゃない。それに例え騙されているとしても、若゙キンマンがオレのこと好きなの
はウソじゃないだろ。だったらオレは若゙キンマンを信じる」
ヒカルたんの必死になって訴える姿を見た若゙キンマンは、俯いてしまった。涙をこらえて
いるのか、何も言わない。しかし、佐為にはそれで十分だった。
「わかりました。ヒカルたんがそう言うなら信じましょう」
「ええぇえぇっ!?」
トーマスは驚き、佐為を見る。しかし佐為はいたって真面目だった。
トーマスは一人納得いかない様子だったが、佐為がそう言うなら従うしかなかった。
(20)
「それでは皆、帰りましょう」
佐為の言葉に皆乗り物に乗り込む。
ヒカルたんは若゙キンマンの腕にかかえられていた。
「よかったな。若゙キンマン」
ヒカルたんは笑顔でそう言った。
若゙キンマンは慣れない笑顔を精一杯つくると、ヒカルたんにキスをした。
「あぁっ、テメェ調子こいてんじゃねェよ!! いいか、ヒカルたんはこの町のヒーロー
なんだぞ。それを汚すような行為は、このオレがゼッテー許さねェからな」
ビシッと年配者らしく言い放った。しかし二人はそれでも延々とキスを続ける。
「ちくしょうっ!! テメェら、無視すんな」
「負け犬、必死だな。それならボクのコレクションを置いてってくれないか?」
若゙キンマンはトーマスをギロリと睨んだ。トーマスはウッと赤くなる。
トーマスのポケットには若゙キンマンが撮ったヒカルたんのあんな写真やこんな写真がギ
ッシリと詰め込まれていた。
不思議そうな目でトーマスを見つめるヒカルたんと目が合う。
トーマスはちくしょうっと叫ぶと、一人どこかへ飛び去ってしまった。
「とことん最低な負け犬だな」
その言葉にヒカルたんは仲間の悪口を言うなとふくれた。
「ごめん。冗談だよ」
そう言って若゙キンマンはまたヒカルたんにキスをした。
その様子を佐為は微笑ましく見つめると、町のほうを見た。
夕暮れ時の町の家々には、暖かい灯がともり始めた。夕食を迎える町の人々のにぎやかな
笑い声がここまで聞こえてくるような気がする。
それはようやく叶った平和な町を、祝福するかのような暖かさだった。
(おわり)
|