とびら 第一章 16 - 20
(16)
いつものようにコップを飲み干し、酔いがくるまえにヒカルは服を脱いだ。
たまりにたまったものを早く発散したかった。
アキラが来ていなければ棋院でしていたかもしれない。そう考えてすこしアキラに感謝した。
全部を脱ぎ終わって和谷を見た。和谷は微動だにせず、また思いつめたような顔をしていた。
「和谷、どうしたんだよ。まさかしないつもりか?」
和谷は首を振る。ならばなぜ脱がない。ヒカルは和谷の手を取ると肩においた。
伝わってくる温もりが心地よい。普通にしていたら寒いのだ。
「進藤、すまない」
何がと聞く前に、和谷は自分の首筋に顔をうずめてきた。
そのまま肩、胸へとおりてくる。突起を思い切りつままれた。
「くぁっ……」
電流が身体を走り抜けた気がした。和谷の触れるところに一気に血が集まってくる。
頭の中がぐちゃぐちゃにかき乱されたようになる。
「なん、で……」
いつもならこうならない。久しぶりだからか。それとも酒を多く入れられたのだろうか。
しかしそれならば自分は酔う前に眠ってしまう。その問いに答えるように和谷は言った。
「催淫剤、入れたんだ」
「サイ……インザ、イ……?」
聞きなれない言葉だった。漢字に変換できない。
「俺、おまえが欲しいんだ」
(17)
和谷の言葉を理解できぬまま、ヒカルは立て続けにイカされた。一方的だった。
ぐったりとして、もう動けないと思うのだが和谷はその手をとめない。
そしてヒカルは心とは裏腹に否が応でも反応してしまう。
和谷は小さな入れものをとり、ふたを開けた。いったい何なのだろう。
「これは潤滑剤。これもネットで買ったんだ」
ヒカルの視線に気付いたのか、和谷は説明する。やはり何がなんだかわからない。
「う、ひゃあっ」
和谷は指ですくいとると、そのままそれをヒカルの中へと入れてきたのだ。
異物が入ってくる感触にヒカルはもだえた。痛みはないが気持ちが悪かった。
性急とも言える動きで、和谷はヒカルの中をかきまわした。
「わ、や、やめてくれよ……っ」
「こうしなきゃいけないんだ。ちゃんと調べたんだ」
ネットで、と小さく言う。どこで何を調べたのかヒカルにとって関係ない。
ただ今すぐやめて欲しい、この一言に尽きた。
「っあぁっ」
内部を探るように動いていた指が、敏感な箇所を刺激した。
萎えていたヒカルのペニスがまた勃ちあがりはじめる。指が増やされるのがわかった。
ヒカルは腰を引こうとしたが押さえつけられていてかなわなかった。
「やめてくれよぉ、わやぁ……」
「こうしないとおまえが痛い思いをするんだ」
痛い思いをさせるつもりなのか。和谷は何をするつもりなのか。予想できない。
ただ良からぬことだというのだけはわかる。
(佐為……佐為……)
その名を呪文のように唱える。心細くて不安でたまらないのに、身体は昂ぶってくる。
それが怖い。ヒカルは宙を見つめた。
(18)
「どこ、見ているんだ」
和谷がヒカルの視線を引き戻した。
「おまえ、たまに何もないところ見てるよな」
まぶたに口づけられた。和谷の唇が熱い。
「ホント、猫みてぇ。猫ってさ、じっとどこか見るだろ? それって人の魂を見てるんだって
誰かが言ってた。俺はほこりを見てんじゃないかって思うんだけどさ」
話しながらも和谷の指は相変わらずヒカルの中を動いている。
ヒカルは次第に奇妙な感覚をおぼえはじめた。
「くぅっ、くっ……」
もう気持ちいいのか、それとも悪いのかさえわからない。
「あっ……」
す、と指が抜かれた。思わずヒカルは力をこめた。まるで行って欲しくないというように。
和谷はまた手に潤滑剤を取り、今度は三本で入れてきた。
「ど、こまで、入れる気だ……?」
「四本。ならさないと入らないから」
「っ!」
それはほとんど直感だった。和谷は自分のそこに、ペニスを挿入する気だ。
ヒカルの肌が粟だった。
「……や、だ! やだやだやだっ。やめてくれ、和谷! 無理だ!」
絶叫するがやめる様子は微塵もない。ぐちゅぐちゅと音が響く。
ヒカルは言うことをきかない身体を奮い立たせ、這ってでも逃げようとした。
「進藤!」
尻をつかまえられ、四つん這いとなってしまった。だが指が抜けた。ヒカルはほっとした。
ところが何か硬いものがそこに押し当てられた。
頭の中で光がはじけた。
ぐっ、とヒカルの中に和谷のペニスが侵入してきたのだ。
(19)
ヒカルは何かをつかもうとしたが、手は空しく畳を掻いただけだった。
和谷が腰を進めてくる。尻に焼け付くような和谷の肌を感じた。
「すげぇ、奥まで入った……おまえん中、柔らかいんだな……」
恍惚とした声音だ。
ヒカルは激しく息をついだ。痛みはそれほどないが圧迫感がひどい。
胸のうちまで和谷のモノが入ってきている気がする。
苦しい。今すぐ抜いて欲しかった。しかし和谷は一呼吸おくと、上下に動き出した。
その動きに引きずられてヒカルの腰も揺れた。
「あ、あっぅ! いたっ……いたいっ、わや……っ!」
痛みが広がっていく。だが和谷はさらに勢いよく腰を振り出した。
つながっている部分がギチギチと陰湿な音を立てている気がした。
本当にそんな音がしていたかもしれないが、ヒカルには確かめる余裕などなかった。
和谷が腰をひいた。抜け出ていく感触に身体がすくみ、下肢に力が入った。
「……っ、締め付けてくるっ……しんどう……っ」
和谷がこらえきれないというように、強引に突き上げてきた。
「っああ!」
立てていた腕がくずれた。ヒカルはまるで猫が背伸びをするような格好となった。
和谷は伸び上がり、ヒカルを抱きしめてきた。
「しんどう……しんどう……」
ささやくように呼びかけられる。ペニスをやんわりと握りこまれ、擦られた。
すると痛みが次第に薄れ、別のものに変わりはじめた。
深く和谷に貫かれ、身体が燃えてしまうのではないかと思えた。
「んっんんっ……んぁ、はっ……ぁあっ」
和谷の手、舌、吐息、すべての動きにいちいち身体が反応してしまう。
「あっはぁ、わや、わ、や……もっとぉっ……」
甘くせがむような声が漏れた。もう何を言っているのか自分でもわからない。
「しんどうっ……! 俺、もうっ……っく」
和谷のモノがさらに膨らんだ気がした次の瞬間、腸壁に叩きつけるように何かが放たれた。
その正体を突き止めぬままヒカルも達し、目を閉じて意識を手放した。
(20)
ヒカルは何度目かのトイレのレバーを押した。ひどい下痢だった。
身体のあちこちが痛い。足を引きずるようにしてベッドに倒れこんだ。
まだ夜が明けぬうちに目が覚めたヒカルは、とにかく和谷の部屋を出た。
足腰に力が入らなく、しかも和谷の残したものが垂れて気持ち悪かったので、
仕方なくタクシーをつかまえた。ふらふらで帰ってきた息子を母親は心配した。
とにかく眠りたくて口もきかずに寝た。しかしすぐに下痢が襲ってきたのだ。
原因はよくわからないが、和谷のせいだということだけは確信できる。
玄関のチャイムが鳴った。話し声がし、階段をのぼってくる音がした。
「ヒカル、和谷くんが来てくださったわよ」
母親の後ろに和谷が気まずそうに立っていた。ドアを閉められ二人きりにされた。
和谷が手を伸ばし、ヒカルの前髪をかき分け、額に手を置いた。
「微熱があるな。ごめん……」
「まったくだ。身体もサイアクだ。下痢はとまんねえし、軽い脱水症状は起こるし」
「本当にごめん。中で出したから……精液には、その、そういう症状を引き起こす成分が……」
「知ってたのかよ!」
小さくああ、という声が聞こえた。無性に腹が立った。
「知っててあんなことしたのかよ!」
「夢中だったんだ。そんなの言い訳にもならないけど……」
ヒカルは布団の中にもぐりこんだ。和谷の表情は見えないが、うろたえている気配を感じた。
「なあ進藤、悪かったよ。こっち向いてくれよ」
今にも泣き出しそうな声だった。少しずつ怒りがおさまってきた。
「何か言ってくれよ、進藤」
「オレは……」
ヒカルはくぐもった声を出した。
「オレは別にすごくイヤだったわけじゃない。それなりに、それなりにだったし……」
「じゃあまたしても……」
「ヤダ。するたびに下痢するなんて冗談じゃない」
「今度はゴムつけるから。いや、嫌ならもうしない。約束する」
ヒカルは布団から顔を出した。不安そうな目で和谷は見つめてくる。
「……次はちゃんとしろよ」
「進藤っ」
和谷は感極まった様子で抱きついてきた。なじんだ感触にヒカルは目を細める。
「……っておい、どこ触ってんだ」
和谷の手が布団の中に入ってきていた。
「え、いや」
「調子にのるなよっ」
ヒカルは思い切りその手をつねってやった。そのとき盆を持った母親が入ってきた。
「ヒカル、お茶を入れたわよ。これは和谷くんの持ってきてくださった豆大福よ」
身体の調子が悪いことも忘れて、ヒカルは飛び起きたのだった。
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