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(16)
バイブ音は夜の静かなトイレの中で鳴り続け、ヒカルの祈りも虚しく、背の低い方がそれに気付いてしまった。
「おいおい、塔矢三段の携帯が鳴ってるぜぇ?誰からだろうなぁ?」
そう言って名残惜しそうにヒカルの股間から顔を離すと携帯をポケットから取り出し、ディスプレイを覗きこむ。
「芦原…だって。あの塔矢門下の奴か…」
ヒカルは誰でもイイからとにかく助けてほしかった。芦原ならヒカルだってしらない仲じゃない。きっと助けにきてくれる!
「芦原サンっ!?かっ、貸してっ!」
「ばぁーか。見せてやんねーよ!」
男はそう言い放って携帯をトイレの壁に投げつけた。携帯は壊れることはなかったが、今やトイレの隅の、ヒカルが手の届かない場所にいってしまった。やっと意識のはっきりしたヒカルは精一杯男を睨みつける。今にも飛びかかりそうなヒカルに、押さえ付けている男の腕にも力がはいる。
「いいねぇ、その目。そそられるよ。」
背の低い男が、満足そうに目を細め、厚めの唇を舌なめずりする。その顔が、ヒカルに生理的に受け付けられない。こんな奴に弄ばれていると思うと気が遠くなる気がする。
「その携帯さぁ、夕方、棋院で拾ったんだよねぇー。僕はヒカルクンの方が好みなんだけどさぁ、そいつが塔矢クン大好きだから、こうやってヒカルクンとも遊べるようにしたんだよぉ。良い計画だろ?ハハ」
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サァッ。ヒカルの顔色が変わった。頭から血が引いていく。
ようやく事態が飲み込めてきた。
こいつら塔矢を――。
ヒカルはぎゅっと唇をかみ締めた。
意識を失っている間に、どれだけ時間が流れたのか分からないけれど、いつも待ち合わせている時刻はとうに過ぎているに違いない。
塔矢が来る、何も知らずに――。それだけは確実だった。
(塔矢!来ちゃダメだ!!)
祈るような気持ちで、ヒカルは心の中、一人叫んだ。
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アキラの事を思うその切なげな表情に、背の低い男がいやらしく笑う。
「どうした?お前のもパンパンだぜ?直接欲しいってか?」
そう低い声で囁くと、ヒカルの下着を一気に剥ぎ取り、ヒカル自身にむしゃぶりつく。
「ひァッ!?やめろヨッ!あぁっ!あぁン!」
キュウッと締めつけるその感覚に頭が真っ白になる。体中の血がその一点に集まるような感覚に息が荒くなって…喘ぎ声がでてしまう。自分でしたことはあっても、こんな風に人にされるのは初めてだなのだ。
「あぁっ…あン!ハァッ!んっ…!」
自分からこんなに切ない声がでるなんて信じられない。いやだ!
「……進藤…いるの…か?」
その時、入り口から自分を呼ぶ声が聞こえた。今のヒカルが最も会いたくないであろう人物。
塔矢アキラの声だった。
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「やめてよぉ・・アッ・・」
この声は・・まさか進藤の・・。アキラは信じられない、とゆう顔をしながら、一番奥の声が聞こえてくる個室へ早足で向う。ドアは意外にも簡単に開いたが、そこには目を疑うような光景があった。
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「…進藤!」
目に飛び込んできたその異常な光景に、アキラは衝撃のあまり手にしていた学生鞄を落とした。
そんなアキラの姿を確認したヒカルは、アキラを魔の手から逃すべくありったけの声で叫び、迫り来る危機を告げた
「来ちゃダメだ塔矢!!逃げろッ!!」
「おっと、そうはさせるか」
下卑た笑いとともに背の低い男が素早くアキラの腕を掴む。
「くっ、何をするんだ!離せ!」
毅然とした態度で腕を振り払おうとするアキラの眼差しに、男は恍惚とした表情を浮べ、さらに強い力で細腕をねじり上げた。
「そうはいくかよ…こっちは二年越しなんだぜ、塔矢クン。
ようやく念願かなうんだ、おとなしく言う事聞いてくれるよね」
「ふざけるな!何故ボクが!」
「いいのかな、そんなこと言って。お友達のヒカルクンはイイ子にしてくれてるよ?」
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