Shangri-La第2章 16 - 22
(16)
乞われるまま緒方がベッドに潜り込みアキラを背中から抱くと、
アキラはほんの少し身体を捩って
安らかな幸せをその口元に浮かべて見せた。
幼かった時代にはこんな表情のアキラを見た記憶もあるが
関係を持つようになってからは特に
緒方の前でそんな表情を見せる事はなかったように思う。
―――思えば、幼いころから無意識に自分を抑える術を
身に付けていたアキラには、海外を飛び回り留守がちの両親にも、
のっぴきならない事情とやらでバイトに明け暮れる恋人にも
淋しいからそばに居て欲しいと訴えることは出来なかったのだろう。
そんなところが『大人しくて聞き分けの良い子』として
周囲の大人達に愛される所以でもあったろうが
若いころの緒方の目には、渡世術に長けた
子供らしくない子供と映っていたのも事実だった。
しかし今にしてやっと、その憐れさを緒方は感じていた。
と、アキラが微かに身体を揺らした。
「ん………」
どうやら、キスのおねだりらしい。
なんとなく沸いた薄っぺらい憐憫の情から、緒方は
孤独を抱いた憐れな子供へ、望むまま与えた。
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唇が塞がれると、待ち焦がれたアキラは両腕をその首に絡めた。
アキラが伸ばした腕の先には、確かに自分を抱き締めてくれる人がいた。
煙草の匂いが鼻を掠める。
自ら差し入れて絡めた舌からビールの苦味が伝い、
唾液の混じる音が脳髄にまで響くようだ。
触れる肌も、その奥の熱も、体中を弄る手の感触すら
身体中に過ぎるほどの幸せをアキラにもたらした。
一瞬のうちに身体中から熱が放出される感覚に酔い
やっと捕らえた雄を夢中で貪った。
溢れることすら出来ず体内で増幅されていくばかりの熱に
アキラが夢中で浸る中、不意に緒方はアキラを突き放した。
「アキラ。もう、おねだりの仕方も忘れたのか?」
始めは何が起きたのか分からないといった様子で
ぼうっとしていたアキラだったが、その視線に
焦点が定まってきたのを見て取った緒方は、促すように
枕を背にして身体を起こし、膝を立てて開いた。
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「ようし、いい子だ…」
アキラは緒方のバスローブの前をはだけさせると
その膝の間に滑り入り、その場にかがみ込んだ。
口いっぱいに頬張った緒方の肉棒は大きくて顎がきつかったが
それがこの後埋め込まれると思うだけで期待で胸が膨らむ。
しかも優しく褒めて貰えて、頭まで撫でてもらえるなんて
嬉しくてたまらなかった。もっと可愛がってもらいたくて、
アキラは菊門の疼きを堪えるように腰を振り
湿った淫らな音を立てて、懸命に緒方の肉棒にむしゃぶりついた。
緒方がぴくりと反応して、また少し大きくなった。
もう少し頑張れば、緒方の指が入口に伸びて、
もういいぞ、と言ってもらえるはずだ。
更に音を立て口で緒方を扱くアキラの頬が、
緒方に見えない場所で少し緩んだ。
緒方は目を細めてそんなアキラを見つめていた。
関係を持っていたころのアキラはどこか淡泊だったからか
今この目の前の必死さがなんとなく愛おしい。
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「――そんなに、欲しいのか?」
背中からゆっくりと撫で回すと、アキラは動きを止め、こくりと頷いた。
「進藤じゃなきゃダメなんだろう?お前がそう言ったじゃないか?」
その言葉にアキラは一瞬身を固くすると顔を起こし
絶望を灯した瞳で緒方を見据えた。
「何も俺じゃなくたって……お前を抱きたいと思うヤツは沢山居るだろう。
だいいち他の男のモノに手を出して、トラブっても面倒だからな…」
緒方はサイドテーブルに手を伸ばし、煙草に火を点けアキラの表情を窺った。
確かに、緒方との関係を清算したときの言葉の中に
そんなようなニュアンスのものが合ったとは思う。
だが、今日の緒方は自分を受け入れてくれている、そう思っていた。
いつだって、厳しく接してはいても根本はいつだって優しくしてくれたし
アキラの小さなわがままを叶えてくれたのは、両親ではなく緒方だった。
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今、自分が人肌に飢えているのは真実だと――それはもう、認めざるを得ない。
ヒカルの多忙の理由を理解している以上、逢いたいとねだることは出来ず
ずっと身体を持て余したままだからだ。
だが、ヒカルの他に誰か、と言ったところで、肌を合わせる相手を
そう簡単に変えることも、出来ない。
緒方なら近しいし、以前の事もあるから抵抗は全くないのだが…
目の前で悠然と銜え煙草でアキラを見ているのは、
これ以上の事をするつもりがないのか、それとも試されているのか。
アキラは緒方の口元から灰の伸びた煙草を奪って灰皿に捻じ込むと
緒方の首に絡みつくように抱きつき、耳元で囁いた。
「緒方さん、抱いて……お願い…」
否定の言葉を聞きたくなくて、そのまま緒方の唇を塞ぎ
舌を絡めて言葉を奪うと、煙草の匂いも味も、濃くアキラの中に漂った。
その風味に酔いながら、アキラは腰を浮かせて
緒方の先端を自ら入り口にあてがった。
(21)
「こら、アキラ、止めないか」
病的なまでに行為を急くアキラを制すのはなかなかに大変で
それでもなんとかアキラを抑えると、アキラは
負の感情が全て入り交じったような表情で緒方をじっと見た。
「そんな事したら、いくら何でも、辛いだろう…」
両手で顔を挟み、子供に言い含めるようにゆっくり話すと
アキラの顔が悲しげに歪み、緒方の胸に埋められた。
「…それとも、痛いのが良くなったか?ん?」
そっと胸元を弄ってやりながら訊ねると、暫くしてアキラは
緒方にしがみついたまま、微かに首を降った。
「そうか…なら、そこに伏せなさい」
アキラは驚いたように顔を上げて緒方を見つめてから
そっと身体を離して、言われた通りベッドに伏せて両脚を開き、
腰を高く上げて緒方を待った。
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背後でするかたかたいう音は、多分サイドテーブルの引き出しを使っている音だろう。
前と変わらないなら、二番目の引き出しの手前の方にローションが入っていて
引き出しを少しだけ引いて、手だけで探り当てて引き出すのが常だった。
「ひぁ、っ…」
そんな事を考えているうち、期待していると同時に不安でもある感触が
現実になって、思わずアキラはその冷たさに身を竦めた。
が、次の瞬間には身体を弛緩させようと努めて意識して、
何度か深く呼吸をした。
ぬるり、と指が一本差し入れられ、中を伺ってくる。
「んっ…、ん………あ…」
ゆっくりともたらされる中への愛撫が、嬉しくて、もどかしい。
喘ぎ声が嫌いな緒方に媚びるため、声になるのを抑えようと喉を開きながらも
意識は全て中で蠢く指使いに持っていかれてしまいそうだ。
不意にぐるりと指を回され、その感覚に身体がびくりと跳ねたが、
大きく吐息が漏れただけで、辛うじて声は出なくて
緒方の機嫌を損ねずに済んだ事に安堵した。
間もなく指を足され、アキラの中を探りながら、解し広げ始めた。
(もう少しだ。本当に、あと少しだ……)
アキラはもう一度後ろを緩めようと、ほうっと息を吐いた。
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