平安幻想異聞録-異聞- 164


(164)
ヒカルが伊角の首に手を回し、そっと顔を近づけてくる。
口付けを求められているのだとわかって、伊角は自分の唇をヒカルの
それにゆっくりと重ねた。
ヒカルが今まで自ら唇を許したのは、たったの二人。佐為と、自分だけなのだと
いう事など、伊角は知らない。
お互いの口腔内を探り合ううちに、ふたたび昂ぶってきた伊角のモノが、
ゆるりとヒカルの中で動き出す。
結局、伊角に二回、中に出されて、ようやくヒカルの体の熱はおさまった。


「大丈夫か」
なんの変哲もない言葉がヒカルの心にしみた。
伊角は添い寝しながら、彼らしいどこか遠慮がちな仕草で、ヒカルの髪を
すいて、撫でてくれている。
こんな風に優しくされたのは久しぶりに思えた。
「ごめんね、伊角さん。こんなことさせて…」
ヒカルは真剣な目をしていた。
「オレのこと、嫌いになった?」
「馬鹿を言うな」
暖かい手が、ヒカルの頭を抱き寄せた。
「この事、佐為殿や賀茂は知っているのか?」
「あいつらには言わないで欲しい。絶対」
「……わかった」
しばらくして、ヒカルが完全に落ち着いたのを見計うと、伊角は身支度を
整え始めた。
「人目につかないうちに帰ったほうがいいだろう」
部屋を外界から遮断する御簾の向こうで、月は沈み、雲は風に流れ、
夜空は細かな薄い光の星まで見えるようになっていた。
帰り支度をし、部屋から出ていく寸前、伊角は床に伏したままのヒカルに
呼びかけた。



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