平安幻想異聞録-異聞- 166
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「ここは、こちらより、あちらの方に石を置いた方がようございました」
清涼殿の一角、帝を前に、佐為の凛としながら穏やかな声がひびく。
近頃は参内も休みがちな佐為であったが、かといって帝への囲碁指南は
完全に休業してしまうわけにもいかず、こうして仕方なしに出仕している。
碁石をはさむ指先の形は、あいかわらず周囲の者が溜め息をもらすほどに
美しかったが、
その白い皮膚は、細かい擦り傷などで、見る影もない有り様だった。
近衛ヒカルの身が座間の元へと渡り、賀茂邸にその事情を聞きに行ったあの夜
以来、佐為は毎夜のように、ヒカルを縛る元になる蠱毒の壺をさがして都の夜を
さまよっている。
最初の日に、賀茂アキラが書き出した、壺が隠されている心当たりのある場所の
見当をたよりに、アキラと供に歩き回り、建物の影や下をのぞき込み、土の色
が変わっている場所、落ち葉がかき分けられている場所を注意深くさぐる。
壺の周りには結界が張られているために、式神には見つけることが出来ない。
だからすべて人である自分とアキラの、目と耳と手が頼りだった。
壺はその呪を掛けられた者の、ゆかりの場所に隠されることが多いという。
手始めは近衛家の周りから、ヒカルの祖父の許可をもらってあちらこちらを
掘り、ヒカルの常の寝所の床板をはがすことまでし、次には佐為の家、碁会所、
さらに検非違使庁の建物にまで足を伸ばした。
夜中、闇に乗じて佐為とアキラは盗人のように、検非違使庁の棟に忍び寄り、
月影に隠れて床下を調べまわりの土を掘り起こす。
なれない鋤や土ヘラを持つ手にはマメが出来、掘り起こしている最中にその鋤の
先などにカチリと硬い物などにあたれば、矢も楯もたまらなくなって道具を放り
だし、手でその正体を確かめようとするものだから、柔らかな指先は土と血に汚れ、
爪は割れて、無残なさまになっていた。
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