指話 17


(17)
―もしかして、君もこの記事の事でオレに説教をしにやって来たのかな?
ぶんぶんと首を横に振った。ハハハッと、掠れた声で彼はおかしそうに笑う。
彼の今まであまり見た事のない表情や言動にボクは戸惑っていた。
新たな酒瓶の封を切ってグラスに注ぎ、一気にそれを呷ってまた注ぐ。
彼の一連の動きをボクは黙って見つめる。そうすることしか出来なかった。
―進藤の話だったな…。囲碁をやめるだって?
進藤の事に話が戻った事にホッとして、返事をする代わりに頷いてみせた。
―イベントでは、少なくともそんな様子はなかったぞ。…普段通りのあいつだった。
再び何かを思い返すようにその人の目は宙を見つめ、そして急に真剣な目付きになった。
―…進藤と打ったよ。
―進藤と…!?それで…?
グラスに酒を注ぐが、飲まないでサイドボードの上に置く。それをじっと見つめている。
その表情を見て、何か不穏な予感が湧いた。進藤との対局の事が、もしかしたら
記事の事以上に彼に聞いてはいけない事であったように感じた。
―進藤は、…saiだ。
彼が発した言葉に思わず息を飲んで彼を見つめる。
―進藤の野郎…、オレが酔っていると思って油断してシッポを出したのさ…。
途中まではsaiであることを隠して打とうとしていたようだが、こちらもそれが
分からない程酔っちゃいない。勝機が見えたとたん別人のように豹変しやがった…。
酒ではなく、パソコンの机の上にあったタバコを取り、一本口に銜えて火をつけようとした。
火はつけられないままタバコは彼の指の中で折れた。



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