誘惑 第三部 17
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もどかしげに震えるアキラの手から鍵が滑り落ちる。金属音を立てて転がり落ちた鍵をヒカルが追う。
そっと拾い上げたその鍵を、ヒカルは不思議なものでも見るように見つめた。
「進藤…?」
「…いい?」
何が?と問う前に、ヒカルが拾い上げた鍵を鍵穴に差し込み、何の苦もなく吸い込まれた鍵を回す。
かちり、と鍵の外れる音がした。
ドアノブを回し戸を開け、乱暴に靴を脱いで部屋に上がる。ヒカルはそのまま真っ直ぐに奥へ向かった。
戸惑いながらアキラがその後を追う。
「進藤…!」
アキラが後ろからヒカルを抱きしめた。
背中にアキラの体温を感じながら、ヒカルはしばらくぶりのこの部屋を見回し、そして天上を見上げる。
仰のいて閉じた目の端から涙が流れ落ちた。
「ごめん、塔矢、ごめん…」
そう言いながらヒカルは身体に回された腕を乱暴に解き、向き直ってアキラを強く抱きしめた。
こんな部屋におまえを一人にしておいて。もう会わないなんて言っちゃって、会いにくるななんて言っ
ちゃって、ごめん。ごめん、塔矢。
「しんどう…」
耳にかかる息が熱い。摺り寄せた頬で涙が混ざり合う。唇を合わせると、涙の味がする。
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