平安幻想秘聞録・第三章 17


(17)
「よう参られた」
 そう佐為に声をかけながらも、東宮の意識がその後ろに注がれてるの
は明白だ。ちらりと肩越しに見れば、都随一の陰陽師である明がせめて
もの魔よけにと持たせてくれた護神刀を邪魔にならぬように脇に置き、
ヒカルは心持ち俯くようにして静かに座していた。
 吸い込まれるような快活な大きな瞳も、いまは長い睫毛に半ば隠れ、
緊張からか引き結ばれた唇と相まって、佐為ですらどきりとするほどの
色香があった。
 慌てて正面の殿上人へと視線を戻せば、当の本人は魅入られたように
ヒカルを見つめたままだ。
「東宮さま」
 佐為の表情が僅かに険しくなったのを見て取り、東宮の側近らしき男
が東宮に声をかける。
「佐為殿にはすぐに指導碁をしていただかれますか?」
「あぁ、そうだな。佐為殿、お疲れではないか?」
「お気遣い、かたじけなく存じます。大丈夫でございます」
 佐為としては東宮への指導碁に手を抜くつもりはなかったが、気持ち
としては一刻も早く終わらせて、ヒカルを連れて屋敷に帰りたかった。
表面は皆にこやかにしているが、この部屋にいる者は全て東宮の側近。
ヒカルと佐為にとっては四面楚歌もいいところだ。
 それではと、見るからに造りのいい碁盤と碁笥が運ばれて来る。脇と
脚に塗りの入った細かい細工の碁盤に、物珍しさも手伝ってついヒカル
は前へと身を乗り出した。
 そのとき、ヒカルは初めてまともに東宮を見た。そして、そのまま固
まってしまった。東宮もヒカルには見覚えのある顔だったからだ。



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