sai包囲網 17
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『佐為、佐為。お願い、何かしゃべってて』
『ヒカル・・・』
ヒカルは意識を佐為の方へ向けることによって、アキラから与えられ
る理不尽な感覚をやり過ごそうとした。痛みも、快感も、全部ないこと
にしてしまえばいい。
『佐為も、千年前は好きな人がいた?』
『えぇ、おりましたよ。内裏におられる女房殿にもずいぶん手紙を貰っ
たものです』
『女房って、人妻?』
『いえ、貴族に使える女人(ニョニン)のことを、女房というのですよ』
『へぇ、そう、なんだ・・・』
しっかりと勃ち上がったヒカルのものは、アキラが手を離しても力を
失わず、二人の間に挟まれて、とろとろと快感の涙を流し続けている。
耳元でアキラの熱い吐息を聞きながら、ヒカルは佐為との会話を続けた。
『手紙って、好きですって書いて、あるの?』
『平安の世では、そうあからさまに好きとは言わぬものなのです。特に
高貴な女性はね。歌に恋い慕う殿方への気持ちを託して、そっと着物の
袖に忍ばせるのですよ』
『ふーん。今とは、ずいぶん、違うんだな』
『そんなことはありませんよ。今も昔も恋に積極的なのは、殿方よりも
女人の方です』
佐為の言葉に思わず微笑んだヒカルに、アキラは訝しげに眉を寄せた。
ヒカルの視線を追ってみても、そこには何もない。何も見えない。
滑らかな肌。艶を帯びた瞳。自分が抱いている相手が他のことに気を
取られているのは、いささかおもしろくなかった。
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