身代わり 17


(17)
冷水をかけられた心地がした。
ヒカルと冴木はもつれあったまま、戸口に立つその人物を見た。
「なにをしているのかな? 二人とも」
「し、白川先生……」
二人の声がはもった。白川は人当たりのいい笑みを浮かべた。
「ここは遊ぶところじゃないよ」
「ハイ、すみません……」
はじかれたように冴木はヒカルの上からどいた。
「冴木くん、和谷くんたちが売店にいるから、呼んで来てもらえるかな」
柔和な雰囲気をたたえているのに、白川はどこか恐かった。
冴木は転がるようにして部屋を飛び出した。階段を全速力で駆け下りる。エレベータを使う
余裕はなかった。
一階に着いた冴木にすぐ和谷が呼びかけた。
「冴木さん、白川先生との用事は済んだの?」
「用事?」
息を切らしながら聞き返す冴木に和谷はうなずく。
「うん。それで下で待っててくれって言われた。そうだ、これ」
和谷が缶ジュースを放り投げてきた。
「口直しにどうぞ、って」
その一言に冴木は頭を殴られた気がした。
いったい白川はどこからどこまでを見たのだろうか。
(まさか、俺が進藤にしてるとこを……)
考えたくない事実に、身体中の血の気が失せていく。震える手でジュースを一気にあおる。
その甘さに、冴木はさきほど口にした苦味を思い出す。
(……進藤になんてことしたんだ、俺)
これ以上はないというほどの自己嫌悪に陥った。



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