うたかた 17
(17)
静かな部屋に、お互いの息づかいの音だけが響いていた。
ふたつみっつしか掛けられていないヒカルのシャツのボタンを外すと、薄桃色の肌が現れる。陶磁器か大理石のように滑らかなその肌に舌を這わせれば、その度にヒカルは腕の中でびくりと身体をこわばらせた。
「…今ならまだ引き返せるぞ。」
加賀は迷いを断ち切れないでいた。加賀の中での中学一年生なヒカルのイメージが、余計に背徳感を感じさせていたのかもしれない。加賀にとって、ヒカルはいつまで経っても幼い存在なのだった。
それに────ヒカルが自分に向ける感情は、自分がヒカルに向けるそれとは違う。
(わかっているのに、何故。)
ヒカルの弱さにつけ込んで、自分はいつからこんなに卑怯になったのか。
「…ひき…かえす……っ‥ひつよう‥なんか…ない……っ」
途切れ途切れに聞こえてくるヒカルの強がりが、たまらなく愛おしい。
胸の淡紅の飾りを口に含めば、ヒカルは高くか細い声を上げた。
「進藤…」
甘い声も、艶やかな吐息も全部吸い尽くすように荒々しく唇を奪う。
引き返す必要なんかないって?
ああ、もう引き返すことなんてできねえよ
ヒカルをきつく抱きしめて、その華奢な肩に唇を寄せた。
柔肌に軽く歯をたてながらヒカルの一番敏感な部分に手を伸ばす。
「あっ…!」
涙のにじんだ瞳をぎゅっと瞑って首を横に振るヒカルの姿は、嫌がっているようにも、よがって先を促しているようにも見えた。
「ん…ぁあッ‥んぅ…っ」
標準よりも少し小さめだが、しっかり自己主張をしているヒカルのものに指を絡め、焦らすようにゆっくりと撫で上げる。
「ふ…っ‥うぇ…っ」
「進藤」
喘ぎに泣き声が混じってきたのに気が付いて、ヒカルの前髪を優しくかき上げる。
「進藤…好きだ」
ヒカルの瞳が開いた。そこに映る自分の顔を見て、苦笑する。
(なっさけねぇツラしてやがる…。)
切なさに歪む表情をこれ以上見せないように、ヒカルの頭を抱きかかえてもう一度言った。
「好きだ、進藤。」
その言葉で堰を切ったように泣き出すヒカルの額に、加賀は何度も口づけた。
ヒカルの傷を癒すように。
加賀がこの世界で守りたいのは、うたかたのように儚く脆いこの少年ただひとりだった。
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