夜風にのせて 〜惜別〜 17


(17)

十七
手紙にはこう書いてあった。
  明さん、お元気ですか。
  この前レコーディングをしました。念願だった歌手デビューに、私は幸せでいっぱ
 いです。この唄は私がいつも新宿の高級クラブで歌っていたものです。いつも明さん
を想いながら歌っていました。夜風にのせて、明さんにこの唄が届くようにと。よか
ったら、聞いてくださいね。
  それから、ごめんなさい。明さんを傷つけてしまって。でも本当のことを言えなか
った。許してくださいとは言いません。けれども、あなたにずっと恨まれたままこの
世を去るのは辛すぎます。だから真実を話そうと思います。
  私は今重い病気に罹っています。この病気で昨年母を亡くしました。だからたぶん
私も…。でも私は幸せです。歌手の夢も叶ったし、明さんとも出会えたし。本当はも
っと生きたかったけれど、そんなの贅沢すぎますよね。
  最後にお願いしてもいいですか。今は結ばれることはなかったけれど、生まれ変わ
ったら、また私と一緒になってくれませんか。私はあなたがすぐ見つけられるよう光
り輝くから、あなたは私を見失わないよう追いかけてきてください。私もあなたを追
いかけます。
  それでは、またお会いしましょう。
「これは、どういうことですか?」
明は訳がわからず尋ねる。
高橋はしばらく黙り込んでいたが、重い口を開いた。
「亡くなったひかるさんの枕元にあった手紙です」
愕然とした明は、手紙を床に落とした。



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