白と黒の宴4 17 - 18
(17)
ゆっくりと唇が離されると、唾液で紅く濡れた唇を光らせてアキラがもう一度睨み返して来た。
だがその目からは完全に力が失われていた。
「出て行け」とも「もう止めろ」とも言わない。
お望みであればその先までしても別に構わない、と投げやりになっているように見えた。
社はアキラの体から離れた。
アキラを囲うように壁に手を付いたまま歯噛みをし、必死に自分に何かを言い聞かせるように
呟き、頭を振る。
アキラはぼんやりとそんな社を見つめる。
そのアキラの体を一瞬だけ社は両腕に捕らえて強く抱き締めた。腰の部分を密着させる。
「あ…っ」
驚いたアキラが小さく声をあげる。アキラの下腹部は熱く昂りっていた。それを知られたのを
恥じるようにアキラは思わず両手で社の胸を押し退けて体を離した。
「…悪かった、…おやすみ」
壁に背をつけて乱れた呼吸を整えようとするアキラを残して社は部屋を出た。
社にしてみれば拷問に近いほど辛い行動だったが、今の自分にはアキラを抱くだけの価値は
ない事を自覚していた。
「明日…一勝してみせる…絶対…!」
社が出て行った後、アキラはコツンと壁に頭を持たれかけさせて息をつく。
壁の向こうに居る、いつまでたっても手が届いたという実感が持てない相手を思う。
「…進藤」
(18)
相手の名を呟き、自分の腕で自分の体を抱く。ひんやりとした空気だけが周囲にある。
合宿の夜に、初めてヒカルと体を重ね合わせた時の温もりを思い出そうとする。
それに代わるものなどないはずなのに、と自己嫌悪に堕ちる。
そして思いとどまってくれた社に感謝する。
それでも体内に闇を放つ炎が宿って揺れ動いている。
社の激しいキスを受けながらアキラの脳裏に浮かんだもの、それはヒカルではなく、
キリキリと手首に食い込むヒモの感触だった。限界を超えて自分を追い詰める広い胸板の
持ち主と、彼によって動物のように喘ぐ自分の姿だった。
「…しっかりしなくては…」
消去したはずの記憶の片隅から心の隙間をぬうようにしてそれはかたちを表して来る。
あれと同等の激しい熱を体が求めようとする。
気持ちを落ち着かせようとして衣服を脱ぎ、バスルームに入る。頭から一気に冷たいシャワーを
浴びる。それでも身体の奥深くが疼き、勢いを失わない。
かといって自分の手で自分自身を包み動かしても、中途半端な刺激を
得るだけでその場所まで到底行き着けそうになかった。
「…しっかりしなくちゃ…」
バスルームの壁に手をつき、社のようにアキラもまた激しく首を振って自分に言い聞かせた。
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