裏階段 アキラ編 17 - 18
(17)
スーツの上を脱いで椅子の背に放り、ネクタイを緩めながら自分もバスルームに向かった。
ドアを開けると白い湯気の向こうで全裸で背を見せて立つアキラがいる。
髪を濡らさないように顔を上向き加減にしてシャワーを浴び、細身の体に行く筋もの雫の流れを纏っている。
高い位置で盛り上がった臀部は引き締まって形の良い丸みを帯び、膝の出ていない真直ぐな
足のラインが伸びている。
美しく成長したものだ、とつくづく感心する。
神は何の気紛れでこの世にこういう人間を生み出すのだろう。
世の中には体のラインを武器に生き抜こうとする者達が多くいる。モデルや芸能界という
分野において。
彼等が喉から手が出る程に望み、日々血が滲む程に努力して維持しているであろう完璧な骨格を
この少年は生まれながらにして手にしているのだ。
こちらの視線に気がつくと、アキラはシャワーを止めてニコリと笑った。
「そこのバスタオルをとっていただけますか。」
幼いアキラを何度か風呂に入れてやったこともあった。比較的手がかからない子供だったが
それでも保育園の頃のアキラはよく脱衣所に出したとたんに廊下に駆け出し、
こちらも慌てて裸で追い掛けたものだった。
小学校にあがると肩までちゃんと湯に沈め、のぼせそうな赤い顔でこちらが言った数字の分だけ
ちゃんと声を出して数えるようになった。
(18)
眼鏡をかけるようになって、確かにアキラとの距離感が生まれた。
懐かれているという自惚れはないつもりだったがそれでも嫌われてはいないと思っていた。
それが明らかにこちらが眼鏡をかける事でアキラが避けるようになったのだ。
それでも気がつくとアキラはこちらを見つめている。
何かを訴えるような、抗議するような視線だった。
ある時いつもはがんばって夜遅くまで門下生らの研究会に参加していたアキラが、
「眠い」といって早々に自分の部屋に引き戻った。
さすがに少し気になって研究会を抜け出しアキラの部屋を覗いた。
そしてドキリとした。
アキラは寝巻きには着替えていたが敷いてある布団に入らず、壁に向かって座っていた。
「アキラくん?」
声を掛けたら一瞬肩をビクリと震わせたが、膝の上で両手を握りしめ、振り向かなかった。
よほどこの眼鏡がお気に召さないのかな、とため息をついて廊下を戻ろうとした。
その時、アキラの小さな肩が震えているのに気がついた。
とりあえず眼鏡を外して胸ポケットにしまい、もう一度声をかけてみた。
「悪かった、アキラくん。…こっちを向いてごらん。」
アキラがチラリとこちらを向き、ホッとしたような表情を見せた。
こちらも畳に膝をついて座り、両手を出して「おいで」という意思表示を示した。
アキラは黙ったまますり寄って来ると、膝の上に座って抱き着いて来た。
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