闇の傀儡師 17 - 18
(17)
アキラはとりあえずヒカルの家を訪ねる事にした。自分に何の連絡もなかった事で
それだけ事態が急速に悪化したのではと感じた。
ヒカルの身に何かあったのかもしれない。
夜にさしかかった他に人影の見えない住宅街を行くと前方にヒカルの家が見えた。
その時アキラは、ヒカルの家の周囲を伺う者がいるのに気付いた。
「?」
直ぐに違和感を感じたアキラは相手に悟られないよう近付き、様子を見ていた。
帽子を目深に被った黒い服の男が、胸ポケットから取り出した何かを直接郵便受けに
差し入れるところだった。
それを見て切手を貼った消印の無い手紙、がアキラの頭の中をよぎった。
「おい、何をしている!」
夢中でそう叫んで駆け寄ると、相手も驚いて逃げ出した。
「待て!!」
アキラは殆ど飛びつくようにしてその男の腕を掴み、もつれあうようにして道路に倒れ込んだ。
「変な手紙をよこしたのはお前か!?」
相手の襟首を掴んで締め上げようとしたアキラの視界に入って来たのは、
首のないジャージの胸元だった。
「えっ…?」
そこにあるはずの首から上は、乾いた音を立てて道路に転がっていた。帽子を被ったその首は、
マネキン人形のものだったのだ。
アキラが道路に組み伏せた体もまた、硬直したマネキンに服を着せただけのものだった。
(18)
「これは…いったい…?」
困惑するアキラの背後で家のドアの開く音がした。アキラが振り返るとヒカルがのろのろと
玄関から出て、門のところにある郵便受けから中に入っていた物を取り出すところだった。
「進藤!!」
アキラがそう言って駆け寄ると、ヒカルはぼんやりとした表情でアキラの方を見た。
酷く顔色が悪い。しばらくただ黙ってアキラを見つめていたがハッと我に帰ったようになった。
「塔矢…!?」
ヒカルの手から郵便受けから取り出した物が下に落ちた。
バササッと何枚もあるそれはやはり例の人形の写真だった。
アキラが駆け寄ってヒカルの体に手を添えるとヒカルは
怯え切った目でアキラを見つめた。
そのまま気を失うように倒れ掛かり、アキラは驚いてヒカルの体を支えた。
「しっかり、進藤…!何があったんだ!」
アキラはヒカルをその場に座らせて、地面に落ちていた写真を集め、一瞬躊躇したが
思いきって一枚一枚眺めた。そして眉を潜め、唇を噛み締めた。
紐で縛られた人形の上にロウソクのロウを垂らすもの、何か白い液体がかけられているもの、
拷問機具のような物に人形を座らせているものなどをいろんな角度で写したものだった。
アキラはヒカルを部屋まで連れていって座らると台所に行き、コップと冷蔵庫から
水のペットボトルを探し出してヒカルのところに運んで来た。
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