敗着─交錯─ 17 - 18


(17)
(遅くなったな…)
進学校らしく一学期に体育祭を行う海王中学は、ささやかながらも盛り上がっていた。
学級会が長引きアキラは急いで校門を出た。
腕時計に目を遣り、ふと考えた。
この時間になら…。

校門から桜並木を両脇に配し、校舎に向かって階段が続いている。
(昔来た時は満開だったっけ…)
遠い日の記憶に思いを馳せる。
今はすっかり葉桜になってしまった桜並木を、ぼんやりと遠くから眺めていた。
すると、何人かの生徒がばらばらと階段を降りてきて、校門から散り散りに下校していく。
「じゃあなー、また明日な!」
(あ……!)
その中の一人に目が釘付けになった。
「進藤…!」
夕日に照らされた歩道を進藤が歩いている。
この時間になら、会うこともないだろうと思って葉瀬中に来たのだ。
それなのに…
嬉しさと動揺で鼓動が速まった。
正直、顔を合わせるのは恐かった。二人の間にあるわだかまりは大きすぎた。
それでも胸は高鳴っていた。
道路の反対側から目立たないように後を尾ける。
(歩くの速いんだな…)
僅かに息が切れてきた。
角をいくつか曲がり、周囲に葉瀬中の生徒がいなくなったのを見計らって歩を速めた。
(進藤…進藤…)
「進藤!」


(18)
「…?」
立ち止まったヒカルが声のした方向を探し、後ろを振り返った。
「わっ…!塔矢!?」
「進藤、あの、久しぶり…」
呼吸を整えながら挨拶をする。
「塔矢…おまえ、…」
驚いたようなうろたえたような進藤の表情は、何と表現していいか分からなかった。
「驚かせたことは謝る、進藤、ボクは…。キミと二人だけで話がしたくて、こんなことを…」
後が続かない。速まる心臓の音だけが胸に当てた手に伝わってくる。
「進藤、あのっ」
「ゴメン!」
急にヒカルが踵を返し駆け出した。
「進藤っ!!」
一瞬遅れてスタートを切ったが、みるみるうちに引き離されていく。
(…進藤!)
やがて後姿を見失い、追うのをあきらめ立ち止まると、肩で息をしながら考えを巡らせた。
(なぜだ…)
電信柱に寄りかかり、深呼吸をして一息ついて辺りを見回した。
「あ…」
帰り道がわからなくなっていた。

「塔矢…ごめん…」
突然の出来事に面食らい、ろくに話しもせずに逃げ出したものの、後ろめたさを感じて夕暮れの街を彷徨っていた。
(アイツはオレを追ってくれてるけど…)
真摯な自分への気持ちが痛いほど伝わった。
立ち止まって、残照に彩られた空を仰いだ。
―――とりあえず、先生の所へ行こう
緒方先生のそばに、いたかった。



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