交際 17 - 18
(17)
ヒカルの頬を大粒の涙が、こぼれ落ちる。それを手の甲でゴシゴシと擦った。
「ち…く…しょぉ――なんで…こんなヤツ…好きになっちゃったんだよ……」
一度寝たら相手に興味がなくなるというのはよく聞く話だ。ヒカルにしてみれば、今の
アキラの態度はまさしくそれだった。だけど、こんなに酷いヤツなのに、自分はやっぱり
アキラが好きだった。自分は本気で好きなのに、アキラの「好き」は全部ウソなのだ。
そう思うと、涙がますます止まらない。情けなかった。
チュッ―――と、音をたてて、突然キスをされた。
ヒカルはビックリして、アキラをまじまじと見つめた。およそアキラがやることとは思えない。
「ゴメン…でも…社がいるのに、その…できないだろう?」
アキラの言うことはわかる。でも、アキラはあの日以来自分を避けている。そのことに
ついてはどうなのかと、訊きたい。
ヒカルに問いつめられて、アキラは困ったような顔をした。天井を仰いだり、畳に視線を
落としたり、何か言いかけては止めたり…。ヒカルはアキラを見つめ続けた。
やがて、アキラは観念したように話し始めた。
「ボクはキミが好きだ。いつも、キミのことばかり考えて、キミにいやらしいことをしたくて堪らないんだ…」
「キミに触れたり、触れられたりすると…頭がカーッと熱くなって…もう…」
ヒカルは穴があくほど、アキラの顔を見つめた。その視線をまともに受けて、アキラは
紅くなって横を向いた。頭が混乱してきた。
「えっと……この間みたいに?」
「この前以上のこともしたい…」
ヒカルは絶句した。アレ以上にスゴイことがあるというのだろうか?急に、心臓が
ドキドキしてきた。頭がクラクラして、息が詰まった。
(18)
「…塔矢…オレ…オレ……」
ヒカルは怖じ気づいてしまった。あの時でさえ、ヒカルには一杯一杯だったのだ。それ以上の
ことといわれても……。今、自分の顔色は真っ青を通り越して、白いだろうと思った。
アキラはそんなヒカルを見て、黙って頷いた。
「わかっているよ…キミには、無理だと思う……」
その言葉にちょっと引っかかった。だが、それを問いつめる気にはならなかった。これ以上、
とんでも無いことを言われては堪らない。それに……アキラの気持ちがわかって嬉しかった。
すごく、すごく嬉しかった。
ヒカルはアキラの腕をとった。
「もう一回して。」
目を閉じて、顎を上げた。躊躇いがち唇が触れて、すぐに離れた。あんまり短いキスだったので、
ヒカルはちょっとがっかりした。
「そんな顔しないでくれよ…ボクを試してるのかい?」
アキラの言葉にヒカルは俯いた。試してなんていない。ただ、キスをして欲しかっただけだ。
「ゴメンよ…」
アキラがヒカルの髪を梳いた。たったそれだけのことで、単純にもヒカルの機嫌は直ってしまった。
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