初めての体験 Asid 17 - 22
(17)
芦原さんの唇から、声にならない悲鳴が発せられた。ゴメン。でも、気持ちいいよ。
ボクが動く度、悲鳴が上がり、芦原さんが身体を硬直させる。そして、彼のその所為は
ボクを心地よく締め付ける。ボクは、彼によって与えられる刺激が欲しくてますます
激しく動く―――の繰り返しだ。
後ろ手に縛り上げられたまま、芦原さんは、顔を畳に押しつけ呻いている。その顔を
見た瞬間、背中を快感が走り抜けた。
一気に達してしまいそうになった――――――が、辛うじて持ちこたえた。ここで、
イッてしまったらボクの負けだ。こんなことでは、進藤の相手はできない。進藤は、
もっとスゴイはずだ。だって、S因子を発動できない今でさえ、あんなに……あんな……
ああ!まずい!想像したら余計に…!
とりあえず、気を紛らわせるため、頭の中で棋譜を並べてみる。………………何とか
落ち着いてきた。ホッと息をつく。
……だが……おかしい…なんだか、ガマン大会のようだ。これが進藤との未来への
第一歩なのだろうか?だとすると……達人への道は、厳しく険しいモノなんだな……。
しみじみと思った。
「ああ…んん…あきらぁ…!」
芦原さんの声が、ボクを現実に引き戻した。先ほどとは、うって変わって、声に艶を帯びている。
瞳を潤ませ、口を大きく開け喘いでいた。そこから幾筋も唾液が流れ、畳に染みを作っていた。
勝った!!!
「あぁ―――――!」
ボクが大きく突き上げると、芦原さんは一声叫んで、畳の上に崩れ落ちた。
(18)
「塔矢、なんか良いことあった?」
ボクの腕の中で、進藤が小首を傾げて問いかける。「ああ、あったよ」とは、進藤には、
言えない。ボクは、返事をする代わりに進藤の胸の突起にキスをした。
「あん…!」
そのまま、口に含み強く弱く吸い続けた。
「や…やだ…あぁん…」
ボクの腕から逃れようと、進藤は背中を反らせた。でも、ボクは離さない。腕に力を込め、
しつこくそこを嬲った。進藤の黒子一つない肌に、痣をつけながら、ボクは芦原さんへの
行為を思い出していた。ああ…この…この肌に…!白い縄を巻き付けたい!ボクは、夢中で
進藤にむしゃぶりついた。
「あ…い…いたいよ…」
しまった。興奮しすぎた。謝罪の意味も込めて、優しく進藤の額にキスをした。そして、
瞼、頬と順々にキスをする。
「塔矢ぁ…」
進藤が甘えるように、ボクにしがみつく。ボクは、進藤が望むように彼の唇にキスをした。
可愛い。こんなに可愛い進藤を縛りたいと思うなんて…どう考えてもボクは終わっている。
でも、どうしてもしたいんだ。ガマンできないんだよ!!縛ったり、叩いたり…それから
……他にもいろいろ…
(19)
突然、進藤がボクを突き飛ばした。
「進藤?」
震えている?どうして?ボクは、進藤の顔を覗き込んだ。
「オマエ、今、何考えてたんだよ?」
そっぽを向いたまま、進藤が訊いてきた。えぇ…?
「別に…キミのことだよ…」
ボクは、優しく笑いかけた。本当のことは言えないよね。
進藤は、ボクの顔をじぃっと見つめてきっぱり言った。
「ウソだ!」
ウソじゃないよ。まあ…よからぬことも考えていたけど…。
「だって…オマエ…目が笑ってネエんだもん…怖ェよ…」
進藤は、枕に顔を伏せてしまった。しまった。顔に出てしまったか…!修行が足りないのか…!?
それにしても、進藤も結構、勘がいいんだな。
「ごめん…今度の対局のこと考えていたんだよ…」
ウソも方便だ。進藤は顔を上げて、ボクを見た。目にいっぱい涙を溜めて、怒っている。
「…オレもその気持ちわかる…でも…オレと一緒の時は、オレのことだけ見てくれなきゃ
イヤだ……!」
そう言うと、また、顔を伏せてしまった。滅茶苦茶可愛い!このまま、地下室に監禁して
しまいたい!地下室なんてないけど……
(20)
ボクは、進藤の背中に覆い被さった。
「や…やめろよ…あぁん…」
前に回した手で、抵抗する彼の股間に触れると、そこは熱くなっていた。
「なんだ…進藤もしたいんじゃないか…」
「や…ちが…」
進藤の呼吸が荒くなり始めた。
ボクは、彼の前を弄りながら、同時に後ろも嬲った。そこは、先ほどまでボク自身が
いた場所なので、簡単にボクの指の侵入を許した。
「あ…んん…と…やぁ…」
ボクの指の動きに合わせて、進藤の腰が揺れる。扇情的だ。彼の頭を押さえ付け、
無理やり貫きたい気持ちをぐっと堪えた。ガマンだ。ボクは、彼の腰を優しく引き寄せると、
自分をそっと宛った。
「入れるよ?」
進藤が、小さく頷いた。ボクは進藤の腰を固定すると、ゆっくりと自分自身を突き入れた。
「アアァ――――――ッ」
ボクが腰を進める度に、進藤は小さく喘いだ。最初は静かに、徐々に激しく抽挿を繰り返す。
「あ、あ、あぁ…ん…ン、ンッ、ンン……アアッ」
快感に耐えきれず、進藤の身体が前に崩れた。枕に顔を押しつけて、喘ぐ様があの時の
芦原さんと重なった。やった……!
進藤の身体に巻かれた白いロープ…縛られた両腕……戦慄にも似た快感が全身を駆け抜けた。
ああ…ゾクゾクする。ボクは、一気に膨れ上がった。
(21)
『ありがとう!芦原さん!』ボクは心の中で感謝した。
ボクのやっていることは、歪んだイメトレじみているけど、それでも、ボクにとっては
必要なことなんだ。進藤を傷つけないためにも…!
この調子でどんどん技術を向上させ、いつかは進藤と……そのためには、次の練習台を
見つけなければ…よぉし!明日も頑張って捜すぞ!
そう決心すると、ボクは闘志を燃え上がらせるかのように、激しく進藤を突き上げた。
「あぁん!とぉやぁ!」
進藤がボクを締め付けた。あぁ!気持ちイイ…!ボクは、自分を解放した。
今日のボクは、至極充実している。腕の中の進藤も、満ち足りた表情で眠っている。
ボクの満足が進藤の満足へと繋がる。やはり、ボクは精進に精進を重ねて行くしかない。
ああ、もうこんな時間か。明日も早い。進藤を自分の胸の方に抱き寄せると、ボクも
眠りについた。
おわり
(22)
今、ボクは、ある老人と向かい合って座っている。桑原本因坊だ。ボクは、自分が
何故ここにいるのかを、改めて考えた。
雑誌の取材の帰りに、棋院でこの老人に声をかけられ、食事に誘われたのだ。理由は
よくわからない。気安く食事に誘われるほど、親しい間柄ではない。だが、ボクは、この
誘いを受けた。暇だったこともあったし、本因坊の人柄に興味もあった。何よりこの老人には、
自分と同じ匂いを感じた。そう、Sの匂いだ。
本因坊に誘われるままに、タクシーに乗り込んだ。しかし、老人は誘っておきながら、
話題を振ろうともしない。ボクも、別に話したいことがあるわけではないからいいけどね。
着いたところは高級料亭。常連らしく、仲居を目で促すと勝手にズカズカ進んでいく。
それをとがめる者は誰もいない。ボクも、その後をついて行った。廊下で仲居さん達と
すれ違った。なんか視線を感じるな。じろじろ見るなんて失礼な。
憤慨しながらも、遅れないように老人の後に続く。暫くすると、ある一室に通された。
広々とした座敷は庭に面しており、障子を開けると美しい日本庭園が、目の前に広がった。
床の間には、水墨画が掛けられ、その前に清楚な花が一輪挿しに飾ってあった。ボクは、
こういう静かな場所は結構好きだ。落ち着く。桑原先生も結構いい趣味をしている。
だが、気に入らないところが一カ所だけある。あの襖の向こうだ。あの奥の間には何かある……!
例えば、行灯の仄かな灯りに照らされる緋色の絹布団…とか。
段々と老人の目的が見えてきた。ただの勘だが――――ボクのS因子がそれを告げている。
なぜなら、ボクもいつかは進藤をこういうところへ連れ込んで、虐めてみたい――と常々
思っていたからだ。
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