平安幻想異聞録-異聞- 172


(172)
「何をされるか!? 不敬ですぞ!」
「かの妖怪退治の折り、我らに先手を取られた事がそんなに口惜しくていらっ
 しゃるか! 藤原一門が内裏にて権勢をふるうのが、そんなに不愉快で
 あられるか! ならば、その恨みは私や行洋様にぶつければよい事! ただ
 我らがそばにいるというだけの、一介の検非違使でしかないかの者に、その
 憎しみをぶつけるなど、筋ちがいも甚だしい。それとも、座間殿は身分が下の
 者へでなければ、怒りをぶつけるすこともできぬ卑小なお方か!」
「言葉が過ぎますぞ、佐為殿!」
座間の手が、進み出ようとした菅原を押しとどめた。
「儂が、内裏での権力争いで近頃振るわぬ様なのを、あのような検非違使一人、
 手に入れることで溜飲を下げていると、そうおっしゃられるか、佐為殿は」
口元に浮かぶ嘲笑うような笑みは消えていなかったが、その座間の声色に
ふくまれた凄みに、近くにいた菅原でさえ、ひいた。
「それこそ、勘違いも甚だしい。確かに、行洋殿に先手先手と取らるるは
 口惜しいが、儂はその恨み辛みを、小者ひとりにぶつけて満足するほど
 堕ちてはおらぬ。儂があの検非違使を、貴公から奪ったのは、純粋に肉の
 楽しみの為よ。安心されよ。あの野の鳥も手なずけられて、今では夜毎に
 儂の寵愛を欲しい欲しいとなきよるわ」
佐為の唇に、彼にしてはめずらしい、嘲笑うかのような笑みが浮かんだ。



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