平安幻想異聞録-異聞- 174


(174)
行洋はその場にいる三人の間に流れる緊迫した空気を見て取ると、
まずは佐為に声を掛けた。
「争い合う声が聞こえたように思ったが、何事か?」
佐為は、座間と菅原をじっと睨みつけたまま動かない。
「座間殿、菅原殿、この者の身はこの内裏において私が後見人をかって出ている。
 この者が何か失礼なことを申したか? ならば、私がかわりに謝罪いたそう」
「そのようなことは無用。私は佐為殿に直接お謝りいただきたいですな」
「佐為。座間殿はこう言っておられるが…」
「…………」
自分の言葉にも和らがない佐為の態度に、行洋の方があきらめた。
「いったい、何があったのかは存じぬが、この者がこのように、声を荒げて怒る
 など、めったにないこと。口論の理由を御説明願えますかな、座間殿、菅原殿」
「この者が、差し出がましくも、座間様の新しい用人の扱いにけちをつけたのです、
 藤原殿!」
菅原が、手にした扇で、佐為を顔を指し示した。
「帝の囲碁指南役を任されたからと言って、座間様の私事にまで口を出すなど、
 この者の思い上がりにも困ったものですな! 藤原殿、貴殿の責任でも
 ありますぞ、これは!」
「ほう…、用人とな。それはもしかして、近頃噂になっている、あの近衛という
 警護役の事ですかな」
僅かに眉をあげて、佐為が行洋の方を見た。
「重陽の節会であの者が披露した舞は、つたないながらなかなか楽しめるもので
 あった。しかし、座間殿、私はあの者の着任に関して、近頃、妙な話を
 聞きましてな」
「噂とな?」



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