平安幻想異聞録-異聞- 175 - 176


(175)
「あの近衛と言う者の人事に際して、ある公卿から衛門府の官人へ、金が流れた
 とか流れないとか」
座間と行洋が睨みあった。
「検非違使はその務めの性質上、立場の中立が原則。それをそのように金を使って
 動かし、思うように自分の警護役をさだめるなど、たとえどのような大貴族でも
 許されぬ行い。今日明日にでもその官人を問いただそうと思っているのですが、
 これに本当に名のある公卿が関わっているとなれば、大変な騒ぎになりますな」
張りつめた雰囲気の中、かすかに聞こえた歯ぎしりの音は、座間のものか。
歯ぎしりの間から、座間の低い声が漏れる。
「行洋殿、貴公も知っておろう。衛門府の小役人など、金や位階の一つで、
 舌を何枚にも使い分けるもの……、貴公の方こそ、官人に金を握らせて、儂に
 不利な証言を引き出そうとするような真似はくれぐれもなさらぬよう、願いたい
 ものですな」
「いえ、しかし、近衛ヒカルの任官に関する不正の噂はわたしも聞き及んでおります」
突然に割り込んだ四人目の男の声に、皆がそちらを向いた。
「伊角殿」
意外な人物の姿に、つぶやくようにその名を口にしたのは藤原行洋。その伊角の姿を
認めた座間の顔が苦々しげに歪んだ。
「わたしのような若輩者が、このような場に口をはさみ、申し訳ありません」
「いや、いっこうにかまわぬが。噂とな…?」
藤原行洋が面白そうに、若者の顔を見た。
「いいえ、まだ公正なる評定の前。件の官人の正式な尋問もこれからとのこと。
 ここで私のようなものが、根拠もない風聞の内容を軽々しく口にする事は
 いたしますまい。が、座間殿…」
伊角が、体ごと座間の方に向き直る。
「確かに、近衛の任官の件はまだ証拠もない噂事…しかし、私自身がこの目で
 確かめた他の事実もございます」


(176)
空気が揺れた。藤原行洋の糾問にも引かなかった座間が動揺しているのが、
近くで見ていた佐為にも感じられた。伊角には昨日、座間の屋敷に使いを頼んだ。
そして伊角もまたおそらく、そこでヒカルがどんな扱いをうけているのか知ったのだと、
佐為は悟った。
「その事実に関わった他の三人の公卿の顔立ち、姿形についても近衛ヒカル本人より
 聞き及び、だいたい誰が、一昨日の晩の「酒興」とやらにお関わりになられたのかも
 想像がついております」
「ほう、興味深い話ですな、伊角殿」
「伊角殿、それを申すなら、貴公もその三人の公卿と同類であろうが!」
「彼らと一緒にしないでいただきたい。座間殿は御存知なかったかもしれないが、
 私と近衛は旧知の仲。昨日今日知りあったのではないのです」
その事実を今初めて知ったのだろう座間が、目をむいた。
「友人が友人に会いに行って、何がおかしいことがありましょうか? 
 心して聞いていただきたい、座間殿。わたしがこの場で全てをあきらかにしないのは、
 座間殿の立場を思いやってのことではありません。この事が明るみに出た場合、
 検非違使としての近衛の評判に傷がつくのがあまりにも哀れだからです。そして、
 なにより! 国のまつりごとを司る人間がこのような人道にもとる行いをしている
 事が、同じ内裏に務める人間として恥ずかしいからですぞ!」
佐為が殺気だった。



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