守って!イゴレンジャー 18
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「ハハ、なんだかおかしいな。敵同士のオレたちが仲良く座って話してるなんて」
ヒカルはアキラの問いに答えず、真剣な眼差しから逃げた。
アキラもそれ以上深追いはしなかった。ただ、確かにこうして座って風に吹かれていると、
帝國軍だからとか棋院だからとか、そんなしがらみは無意味だと思えてくる。
帝王が嫌だと思った事はないが、アキラは奔放に生きるヒカルに触れるたびに
ただの少年アキラとして振舞ってみたい欲求に毎度毎度駆られてしまう。
アキラにとってヒカルは萌えの対象であると同時に、手に入らない“自由”そのものなのだ。
故に自由に走り回っていたヒカルが今は小さくうずくまり、帰る場所のない
捨て犬のような目で川面を眺めている姿など、アキラには耐えがたい光景だった。
「…どこか怪我でもしているのか。それとも病気か」
「どっこも悪くねェよ」
「ならなぜ、キミはそんなに痛そうな顔をしている?」
「…ハッ、ヘンな顔してんだろうな、オレ。──悪い、あんまし見んな」
「何故だ」
「───ッ」
多分自分は随分長い間泣きたかったのだ、とヒカルは思った。
伊角の一件はきっかけにすぎない。プロ入りしてすぐにイゴレンジャーに推薦され、
今日まで走り続けてきた。気に入らない作戦にも笑って従い、成功させてきた。
だが楽しい出来事の裏で、少しずつ蓄積されてきた別の感情がある。
情緒不安定の原因は、それが我慢できないレベルにまで達しただけのことなのだ。
だから泣いて泣きまくって、そしてすぐ忘れてしまおう。
ヒカルが泣き止むまで、アキラはずっと無言のまま肩を並べていた。
ヒカルの涙は怪我をした痛みに流すそれではなく、もっと深くて暗いものだ。
魔界に棲む身だからこそ、ヒカルを覆う悲しみがすんなり伝わってくる。
数分後にヒカルが泣き止むと、アキラは立ち上がって右手を差し出した。
「行こう」
行く先は告げなかった。決まっていないのかもしれなかった。
「……」
それでもヒカルはその手を取った。逃げ出したいわけじゃない。
ただ、ほんの数時間だけでもいい、どこかへ行きたかった。
二人を乗せたハマグリゴイシが川沿いの道をひた走る。
ヒカルは帝王アキラの腰にしがみつき、流れていく景色を目に焼き付けていた。
アキラは、国庫金の半分を軍事資金に流用してまでも手に入れたかったヒカルが
自分の後ろにいることをくすぐったく思いながら、快活に笑った。
「このままキミを國に連れて帰ればボクの野望の半分は達成されるんだけどな」
「──そういえば、あんだけ戦ってるのに、少年帝國に行った事なんて一度もないな。
どんな町なんだ?」
「行けばわかる。キミさえ良ければいつでも迎える用意は出来ている」
迎える用意とはずばり祝言の準備なのだが、真の意味は伏せておいた。
「……敵情視察がてら、ってのもいいかもな」
ヒカルがアキラになびきかけた時、突然ハマグリゴイシの行く手を何者かが遮った。
「検問です!」
土手から背広を着た男たちが駆け寄ってくる。その後ろには巨大な網と、巨大な…紙?
二人を邪魔する者たちの正体はなんだ?
次週ようやく最終回(多分)!好手戦隊・イゴレンジャー!!
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