金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 18
(18)
「あ…」
アキラはヒカルを追おうとしたが、ちょうどその時電車が止まり、乗客に押されるまま
ヒカルと反対の方へと流されてしまった。
アキラはヒカルが気になって、チラチラと何度もヒカルの方へ視線をやった。すっかり
満員になってしまった車両の中では身動き一つままならない。
他の乗客達に埋もれるように立っているヒカルの表情は、よく見えなかった。
『もう、なんで離れていくんだ。ガードしろって言ったのはキミの方じゃないか…』
今のヒカルはどこから見ても可愛い女の子である。チカンにあっても不思議はないのだ。
その時、俯いていたヒカルの頭がピクンと跳ねた。何かを避けるようにして、身体を捩らせているのが、
わかる。半泣き顔で、あたりをきょろきょろ見渡して、誰かを捜していた。
『ああ…もう、バカだな…!キミは…』
助けに行きたいが、腕も自由に上がらない。
「進藤!どうしたんだ!?」
ヒカルに向かって大きく声をかけた。周りの乗客が、一斉に自分に注目する。恥ずかしかったが、
仕方がない。自分が恥を掻くよりも、彼を安心させることの方が重要だ。
その声のおかげで、ヒカルもやっとアキラを見つけることが出来た。彼は、最初は大きな目を
まん丸にしていたが、ホッとしたのか暫くしてから顔を歪めて、泣き出しそうな声でアキラに訴えた。
「誰かが…スカートの中に手ぇ突っ込んで…お尻にさわってるんだよぉ…」
と、ヒカルが言った瞬間、彼の真後ろの男の身体が僅かに揺れた。その男は慌ててヒカルから
離れようとしている。
「あ…離れた…」
気の抜けたようなその声に、周りの乗客達がクスクスと忍び笑いを漏らす。ヒカルは、きょときょとと
不思議そうに周りを見渡し、それから赤くなって俯いた。
彼らが笑ったのは、ヒカルをバカにしてのことではない。ヒカルの無防備さと素直さが
とても可愛らしく映ったからだ。実際、自分も当事者でなければ、一緒になって笑っていただろう。
本当に可愛いものを見たと…。
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