失着点・龍界編 18
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「いや、今のところ何も…でも、どうして?」
ヒカルはホッと息をついた。
「ううん、だったらいいんだ。」
後にこの中途半端な会話をした事をヒカルは死ぬ程後悔することになる。
ヒカルと別れ、アキラは駐車場の緒方の車の助手席に乗り込んだ。
ヒカルとの関係の事は知らなかったが、アキラは緒方が自分とヒカルとの事に
深い理解を示してくれている事は強く感じていて嬉しく思っていた。
だが、だからと言ってあまり緒方に甘えるべきではないと考えていた。
ヒカルと堂々とみんなの前で会う為にも、強くならなくてはいけない。
周囲を説得するにはそれしかなかった。その第一歩が今日のはずだった。
病院を離れる時は体が二つに引き裂かれそうだった。
「…進藤…」
助手席で病院の方角から視線を動かそうとしないアキラを緒方は悲痛に思い
横目で見遣った。
ヒカルが病室に戻ると母親が心配そうに椅子に座って待っていた。
「緒方さんともう一人お見舞いに来た人と出て行ったって聞いたけど、
どなた?…まさか…」
「違うよ、わ、和谷だよ。」
伊角の名を出そうとして、ヒカルは変更した。伊角だったら直接挨拶に
来るに違いないと母親が勘ぐると思ったからだ。何も知らない母親にとっては
アキラより伊角や和谷の方が信頼出来る対象なのだ。
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