少年サイダー、夏カシム 18
(18)
しばらくの沈黙のあと、ヒカルは嗚咽をもらしながら苦しそうに言った。
「ごめん。ちょっと・・・眠りたいから、もう帰ってくれないか」
いつまでも寂しそうに泣き続けるヒカルを独りにすることはできなかったが、和谷は自分がまいた種だと諦めて、帰ることにした。
「それじゃ、またな」
和谷は荷物とペットボトルを手に持ち、名残惜しそうに立ち上がると、ドアの取っ手に手をかけた。
「和谷! オレが今日泣いてたこと、忘れてくれ。本当にたいしたこと・・・無いからさ」
ヒカルは涙をこらえて精一杯の笑顔をつくって見せた。オレは大丈夫だからと強がってみせるヒカルを見て、和谷は切なくなった。
ふと突然手合いを何度もサボったあのことも、時折見せる寂しそうなあの顔も、その人が原因なのだろうかという疑問がわいた。だとしたら、今までのヒカルの深い悲しみと奇行を理解できる。
もしそうだとすれば、ヒカルをここまで苦しめるのは誰なのだろうか。恋人? 友人? 自分の知らない人だろうか。ヒカルとその人との間にいったい何が起こったというのだろうか。
ヒカルを慰めたいという気持ちと、ヒカルからそんな風に想われる者への嫉妬心から気になって仕方がなかったが、和谷はわかったと微笑むとヒカルの家をあとにした。
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