失着点・展界編 18
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しばらく和谷は、伊角がここに戻って来た事が信じられない様子だった。
「何だよ…、てっきり進藤とよろしくやってんのかと思ったのに…あいつは、
ああ見えて抜け目ないから…」
パンッと伊角の平手打ちが左頬に来て、そのままグイッと右手をひっぱられ
立ち上がらさせられた。
「イテテッ…、伊角さんにしては珍しく乱暴だなあ。」
「甘えるのもいい加減にしろ!和谷!…とっとと服を着ろ!」
部屋の中へ突き飛ばされ、和谷はのそのそとジャージを穿いた。
「ッ…痛…」
右手に今までにない激しい痛みが走り、手首を押さえて座り込む。
「ヘへ…さすがにさっきの一撃でイッちまったかな…」
伊角がそばに座り、汚れた包帯をほどく。そして現れた手の様子を見て、
伊角は思わず顔を背けた。和谷の右手はところどころが赤く、青黒く腫れて、
皮膚が裂けて膿んでいるところもあった。小指は倍近く膨れていた。
「…進藤からの伝言がある、和谷…」
「何だよ。もう2度と顔を合わせたくないってか?」
「『病院に行って欲しい』って…。『碁石が持てなくなるから』って…。」
和谷の顔に張り付いていた薄ら笑いが消えた。
「それから…『和谷、本当に、ごめん』って…」
和谷は伊角の手から右手を振払おうとした。伊角は離さなかった。
「…うっ…」
和谷の両目から涙がこぼれ落ちるのと同時に伊角は和谷の頭を抱きかかえた。
伊角の胸に顔を埋めて和谷は大声を上げて泣いた。
「和谷…お前、…本気で…進藤のこと…」
胸が潰れるような思いで、伊角は泣叫ぶ和谷を抱き続けるしかなかった。
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