トーヤアキラの一日 18 - 19
(18)
ヒカルは、歩きながらずっと最近打った碁について喋っていた。アキラは「うん」とか
「そうだね」としか言わなかったが、とにかくヒカルは喋りたかったようだ。
いつどこで決まった事なのか分からなかったが、ヒカルは当然の様にファーストフードの
お店に入って行き、カウンターで飲み物やポテトを注文する。
「お前もポテト食べるだろ?飲み物はコーヒーでいいよな」
「うん」
アキラが財布を出そうとすると
「あ、いいよ後で」
と言って、トレイを持って、スタスタと禁煙席の奥の方に歩いていく。その場所は少し
奥まっていて、隣の席からも少し離れているので落ち着く場所なのだ。
コートを脱ぎながら座ると、ヒカルはまた話を続けた。
ヒカルの口から繰り出される碁の話を聞いている内に、少し落ち着いて来ていたアキラは、
ヒカルの向かい側に座り、ヒカルの顔をひたすら見つめる。
この一ヶ月、会いたくて会いたくて仕方なかったヒカルの顔。大きく見開かれた瞳は
キラキラ輝きながら、アキラの顔とトレイにあるポテトを行ったり来たりしている。
夢中で喋る事で興奮しているのか、頬はうっすらとピンク色に染まっている。口元は
喋ったり食べたりで、忙しく動いている。ポテトの油で少し光っている唇は、赤みがあって
艶を帯びていて、恥ずかしくてアキラは直視する事が出来ない。細い首に付いている可愛い
突起は、食べたり飲んだりするたびに上下に動く。
今までは意識しなかったヒカルの全てが愛しく思え、自分のヒカルに対する恋愛感情が
嘘では無かった事を、はっきりと悟った。
(19)
ヒカルは、ずっと熱心に自分の話を聞いているアキラに対して、思い出したように聞いて来た。
「そういや、塔矢。別に具合は悪くないのか?」
アキラがうなずくと、ホッとしたように微笑み、すかさず聞いてくる。
「それでさ、その後なんだよ。実戦ではそこでかわして来たんだけど、塔矢はどう思う?」
「えっ?」
「一見、良い一手に見えるよな?」
「えっと、実戦でのその先の展開は知らないけど、色々な場合に備えて、ボクなら内から
ノゾいて様子を見るかな。その方が結局は足が早いし、隅に対しての睨みも利くと思う」
ヒカルは我が意を得たりとばかりにアキラを指差しながら
「だろ?な?そうだよな?やっぱりなぁ!塔矢ならそう言うと思ってたんだ!!」
と言って、満足そうにポテトを口に放り込む。
アキラは、ヒカルの期待に応えられたような気がして、嬉しさと恥ずかしさでまた顔が熱く
なるのがわかるが、ヒカルから視線を逸らすことはせず、じっと見つめている。
「ところで、お前の用事って何?」
「えっ?いや、別に、その、キミと碁の話がしたいと思って・・・・」
「やっぱお前も?俺もさ〜お前の意見が聞きたかったんだよな。同じ事考えてたんだな、ハハ」
「・・・・・・・・」
「やっぱりさ、お前と碁の話をするのはいいよな。ツーと言えばカー、っつうの?ヘヘヘ」
「・・・・・・・・」
「碁会所はちょっとアレだけどさ、時々こうやって碁の話したいよな」
そう言ってヒカルはすぼめた口にストローを咥えてコーラをグイグイと飲む。
飲みながら上目遣いでアキラを見て、不安そうな表情に変わった。
「あ、いや・・・4月まで来ない、とか言ったのはオレだしさ・・・・。ひょっとして怒ってる?」
「えっ?」
「だって、怖い顔して睨んでるからさぁ」
「そ、そんな・・・・」
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