失着点・龍界編 18 - 19


(18)
「いや、今のところ何も…でも、どうして?」
ヒカルはホッと息をついた。
「ううん、だったらいいんだ。」
後にこの中途半端な会話をした事をヒカルは死ぬ程後悔することになる。

ヒカルと別れ、アキラは駐車場の緒方の車の助手席に乗り込んだ。
ヒカルとの関係の事は知らなかったが、アキラは緒方が自分とヒカルとの事に
深い理解を示してくれている事は強く感じていて嬉しく思っていた。
だが、だからと言ってあまり緒方に甘えるべきではないと考えていた。
ヒカルと堂々とみんなの前で会う為にも、強くならなくてはいけない。
周囲を説得するにはそれしかなかった。その第一歩が今日のはずだった。
病院を離れる時は体が二つに引き裂かれそうだった。
「…進藤…」
助手席で病院の方角から視線を動かそうとしないアキラを緒方は悲痛に思い
横目で見遣った。

ヒカルが病室に戻ると母親が心配そうに椅子に座って待っていた。
「緒方さんともう一人お見舞いに来た人と出て行ったって聞いたけど、
どなた?…まさか…」
「違うよ、わ、和谷だよ。」
伊角の名を出そうとして、ヒカルは変更した。伊角だったら直接挨拶に
来るに違いないと母親が勘ぐると思ったからだ。何も知らない母親にとっては
アキラより伊角や和谷の方が信頼出来る対象なのだ。


(19)
次の日、前日に続いていろいろな検査を終え、ヒカルは病室に戻ろうとした。
すると廊下の長椅子に緒方が座って待っていた。
「ちょっといいかな、進藤…」
ヒカルはかつて見た事がある緒方のその視線にため息をついた。
…やはり、この人だけは誤魔化す事が出来ないかったか…。そう思ったのだ。
緒方はヒカルを人が来ない屋上に連れて行った。
「…何があった。」
屋上の片隅で、タバコに火をつけながら緒方は尋ねて来た。ヒカルは唇を
噛んで、返事をする代わりに手首に触れた。
緒方はタバコを銜えるとその手を取り、リストバンドを下げた。細く白い
手首に禍々しく残った、指の痕のような痣。
「…相手は…?」
眼鏡の奥で、色の薄い瞳がさらに鋭さを増して光ったように見える。
ヒカルはただ、首を横に振るしか出来なかった。
「まさか、前と同じ相手じゃないだろうな。」
「違う…今度は本当に…知らない相手…。最後までやられたわけじゃ
ないけど…だけど…」
答えながら、あの時の恐怖が蘇って膝がガクガク震え、顔色が白くなって
行くのを感じた。そんなヒカルを見て、思わず緒方が肩に触れようと
するが、ヒカルは一歩下がった。
それを予測していたように緒方がされに足を踏み出し、ヒカルを捕らえて
しっかりと抱き締める。
緒方の大きな手が頭に乗せられ、長い指で髪を優しく梳かれると、
やがてヒカルは安心したように落ち着きを取り戻した。



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