失楽園 18 - 19
(18)
ベッドの上に投げ出された手足は、時折ピクンピクンと痙攣するように震えている。
「はぁっ、――はあ…っ」
水槽のエアが爆ぜるコポコポという音しか聞こえない、そんな空間に薄い胸板をせわしく上下させる
ヒカルの荒い息だけが響いた。
胸の赤い飾り、小麦色の肌に飛び散った白い精液、そして幼い性器――緒方はアキラによく似た、だが
全く別の個体であるヒカルの全身を舐めるように見回す。緒方は口の端を少し上げて笑った。
「……気持ちよかったか? アキラくんに見られながら射精するのは」
ヒカルのニキビひとつない頬を片手でグッと掴むと、緒方は笑いながらアキラの方を向かせた。
抵抗する気力もないのだろう、ヒカルは緒方にされるがままだった。
「しん、ど……」
ヒカルと正面から向き合ったアキラは顔色を蒼白にしたまま、そろそろとヒカルの方へ腕を伸ばす。
だが、その細い指がヒカルに触れることはなかった。
「……?」
唇をキツく噛んで、自分の身体を支えるようにして立っているアキラの姿を、ヒカルはぼんやりと
その大きく澄んだ瞳に映していた。
緒方は指先についたヒカルの残滓をバスローブで執拗に拭い、アキラに見せつけるようにしてその
指先を舐める。苦かったのか、緒方はその秀麗な眉をつと顰めた。
「…オマエも可哀相にな」
ヒカルの滑らかな頬を何度も撫でながら、緒方は低く掠れた声でゆっくりと言葉を紡ぐ。
ヒカル、あるいはアキラに言い聞かせるように。
「…彼がオマエに興味を持ったり、ましてや抱こうなんて思わなかったら、――オレを疑ったり
しなければ、こんなことにはならなかったのにな」
(19)
『…彼がオマエに興味を持ったり、ましてや抱こうなんて思わなかったら、――オレを疑った
りしなければ、こんなことにはならなかったのにな』――緒方の落ち着いた声を聞き、ピクリと
アキラの細い肩がふるえた。目を閉じて、アキラはどこからか湧き上がる痛みに耐えるように
ぎゅっと拳を固めた。
「だって……!」
血を吐くように絶句したアキラをどう思ったのか、緒方は口元だけでクスリと笑い、自分の
下に力無く横たわるヒカルを見下ろした。光を無くした大きな瞳は、どこを見ているとも判らない。
緒方は頬を撫で続ける手をスッとずらすと、胸の赤い飾りを中指と親指で摘み、人差し指の爪先で
その突起の僅かな窪みを刺激した。
「あ…、んっ」
ヒカルの口から、吐息のような喘ぎが漏れる。ヒカルはそろそろと右手を持ち上げると、開いた
口に人差し指を折り曲げて咥え、それを幼子のように無心に吸っていた。
「進藤。――言っておくが、これで終わったわけじゃない」
優しい口調で囁きながら、ヒカルの口に親指を添えて軽くこじ開ける。ヒカルの口は容易く開き、
緒方が軽く腕を引くと、ヒカルが吸っていた人差し指はと唾液の糸を引きながら易々と離れた。
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