スノウ・ライト 13-15
(18)
棺のまわりで小人たちは泣いています。
花に埋もれたヒカル姫はたいそう清らかに見えました。
小人たちはヒカル姫の弔いを、胸が張り裂けそうな思いでしていました。
いえ、張り裂けそうなのは胸ばかりではありません。
小人たちはみな股間を押さえながらうずくまっていました。
ああこんなことなら、土下座して無様な姿をさらしてでもヒカル姫に相手をしてもらえば
良かった、と悔やまれてしかたがありません。
そんなふうに悲しみに沈んでいた小人たちの小屋の前に、一台の車がとまりました。
降りてきたのは白スーツに身を包んだ男です。
「きれいな姫だ。俺に譲ってくれないか?」
男はヒカル姫を見るなりそう言いました。ワヤは目をむきました。
「誰だよ、アンタ!」
「通りすがりの者さ。おい、グーを出してみろ」
ワヤがグーを出すと、男はパーを出しました。
「よし、俺の勝ちだ! 譲ってもらおう」
「何言ってんだよ! だいたいヒカル姫はもう死んでんだぞ!」
「死体でもかまわん。十分ハァハァできる。俺のものだ」
そう言うとヒカル姫を抱きかかえようとしました。
そこへ車の助手席から誰かが慌てて降りてきました。
「オガタさん! ヒカル姫はボクのものだとおっしゃったではありませんか!」
隣国のアキラ王子です。その表情は怒りに満ちていました。
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オガタはふん、と鼻で笑って王子の怒りを受け流しました。
「アキラ王子、勝負の世界は非情なものだ。キミも十分わかっているんじゃないか?」
王子は御付きをにらみ付けました。空気に激しい火花が散ります。
しがない小人の身分ではとうてい間に入ることなど出来ないので、小人たちは口を挟まず
ただ見ていました。
「だいたいキミは少し自己中心的過ぎる。それに自分の立場がわかっていない」
「何がおっしゃりたいのですか! ボクは王子ですよ!」
「ふん、現実ではたかが三段ではないか。俺は二冠だぞ? なのに上座に座りやがって」
『お、緒方先生、セリフが違います!』
「だいたい何でこんな子供だましの劇に付き合わなくちゃいけないんだ。どうせなら
25禁の劇に出たかったぜ。そしたら大人の魅力をたっぷりと演じてやれるのに」
『緒方先生! 劇を続けてくださいっ』
「しかし進藤、なかなかかわいいじゃないか。アキラくんのキスよりも俺のキスのほうが
ばっちり目を覚ますことが出来るぜ」
『わあ! 緒方先生! おやめください!』
「ああ、もう! 聞いてりゃ何なんだよ! おまえら劇をする気がないのかよ!
ナレーションの人も困ってるだろ! ほら続けろよっ。ったく、もう起きちゃったよ。
“ヒカル姫は目を覚ました”ってところからやるぞ!」
『ヒ、ヒカル姫は目を、さ、覚ましました……アキラ王子は』
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アキラ王子はヒカル姫のうるわしい瞳にくぎづけとなりました。
「ああ、美しいヒカル姫。ボクの花嫁になってください」
アキラ王子は手をさしのべました。ヒカル姫はその手にそっと自分の……。
「やっぱり納得できない!! 何で進藤がお姫さまなのよ! おかしいじゃない!
普通はわたしでしょ!?」
『奈瀬くん! ここはきみの出番ではないよ!』
「なのにこんないじわるな継母の役なんて冗談じゃないわ! わたしは碁会所のおやじを
手玉にとっちゃうくらい、いい女なのよっ」
「自分でいい女だなんてよく言えるね」
「越智! うるさいわよ!」
ガタガタガタッ!!
「ここはヒカルたんハアハアが集まってるんだから、ヒカルたんがヒロインで当たり前
だろ!!」
「そうだそうだ! ヒカルたんこそが俺たちの光なんだ!」
『お客様! どうかお席をお立ちにならないでください! どうかどうか!』
「ヒカルたんバンザイ! 存分に俺たちをもてあそんでください!」
「ハアハアハアハアハアハアハアハアハアハア!!!」
「進藤! こんな人たちを相手にする必要なんかない! キミの相手はボクだけだ!」
「と、塔矢、落ち着けよ! おまえまで取り乱してどうするんだよ」
「だいたい、いつになったらキミはボクの気持ちに応えてくれるんだ!」
「おい塔矢! 俺たちだっているんだぞ!」
「キミたちがボクにかなうとでも?」
「何だよ! その笑いは! ちょっと強いからって調子に乗るなよ!」
「ちょっと? キミたちとボクの差がちょっとだとでも思っているのかい?」
「どういう意味だよ!」
「ああ、もう! みんなやめろよ! やめろったら!! 〜〜〜オレ、もう帰るっ!」
『も、もうダメです! カ、カーテンを!! カーテンを早くおろしてください!』
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