平安幻想異聞録-異聞- 180


(180)
あんな、重くて邪魔な十二単衣で走れるなんて、さすがオレの幼なじみだ
なんて、変な感心をする。秋らしい女郎花襲ねの着物が、足に跳ねられて
色が散る様が綺麗だな、と眺めていると、あかりはあれよあれよいういう間に
近づいてきて、そのままヒカルの胸にまっすぐに突っ込んだ。
「うわ〜〜っっ!たったったっ!」
踏ん張りきれなくて、そのまま高欄を乗り越えて中庭に突き落とされそうに
なる。
そのヒカルの腕をすんでのところで加賀がつかんで戻して、笑う。
「まぁ、俺はお邪魔虫っぽいから退散するぜ」
「ええ! 何だよそれ!」
「じゃあな」
「おい!」
渡り廊下をずんずんと歩き去る加賀を引き止めようと延ばした手を、あかりが
袖をつかんで止めた。
「いいの! 私が頼んだんだから!」
「だいたい、お前こんなとこで何してんだよ!」
「何してんのは、ヒカルでしょう!? あんな…あんな遊女や白拍子みたいな
 真似させられて! なんで怒んないの! なんで言いなりになってんのよ!」
重陽の節会の折り、自分が座間に言われて披露した舞いの事をいっているのだと
わかった。
ヒカルは体の力を抜いて、あらためて自分の胸にすがりつくあかりの顔を見た。
物心ついた頃からずっと見てきた顔なのに、今初めて会ったような錯覚を覚えた。
いつの間にか鼻筋が通って、目元からも幼さが消えて、女らしくなっていた。
いい匂いがする。佐為や、他の公達たちが香らせているような、作られた香の
匂いじゃない。女の子だけが持っている、独特の切なくなるような甘い薫りだ。
そのあかりが今、自分の胸に体を押し付けるようにして、すぐ近くから自分を
見上げていた。顔を真っ赤にして、心配に目を潤ませて。



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