平安幻想異聞録-異聞- 181
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「お前、怒ると顔が赤くなるのは昔っからだよなー」
「バカ!」
あかりがヒカルの胸を両の手でドンと叩いた。
「誰のせいだと思ってんのよ!」
「もしかして、俺のせい?」
からかってやるつもりの言葉。いつものあかりなら「そんなわけないでしょ、
ヒカルのことなんて気にしてないもん」とでも返ってくるはずが、今日は違った。
「他に誰がいるの?」
ヒカルはどう返していいかわからず黙った。
「あんなに、佐為佐為って言って佐為様にくっついて歩いてたくせに。
どうして座間様のとこになんかいるのよ。内裏でだって、ぜんぜん佐為様と
顔も合わせてないでしょ、変じゃない」
「座間…様の警護の仕事は、そりゃ、検非違使の仕事だからしかたないよ。」
「菊の節句で、あんなふうに躍れもしない舞いを舞わされるのも仕事なの?
近衛の家のお母様やおじい様も放っておいて、座間様の家に泊まり込みまで
して? 座間様の警護の衛士なんて他にいっぱいいるじゃない!」
あかりの手が、ヒカルの頬に延びた。
「顔色悪い。ちゃんと寝てる? 前よりやせて細くなったでしょ?
ヒカル、最近、ずっとフラフラじゃない。遠くから見てたってわかるよ。
そこまでしなきゃいけない仕事なの? なんでそんなに無理してるの?
それにね、一番わかんないのは、ヒカル自身だよ。なんで黙ってんの?
なんでそこまでされて怒んないのよ! そんなの、ヒカルじゃないでしょう!?」
激昂するあかりの潤んだ目じりから、透明な雫が一粒、こぼれて落ちた。
ここにも自分を心配してくれる人がいた。
佐為や賀茂だけじゃない、加賀や伊角、あかりもこうして怒って涙を流すほどに、
自分の身を案じてくれている。人は、自分の事を思ってくれる人がいるという
だけで、こうも勇気付けられるのだと、ヒカルは初めて知った気がした。
だからヒカルは笑いながら謝った。
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