平安幻想異聞録-異聞- 182


(182)
「ごめん」
「謝って欲しいわけじゃないわ」
「だけど、本当に今はだめなんだ。色々あってさ。大きな声じゃいえないけど
 嫌なことばっかりだよ。でも、俺はこれが終わるまでは、近衛の家に帰るわけ
 にいかないんだ」
「私じゃ、相談相手にもならない?」
ヒカルは頷いた。いつか…でもいつかそのうち、今日この時の事を「あの時は
こんなことがあってさぁ」と、あかりに笑って話せる日はくるだろうか?
「そう…」
あかりがあんまり寂しそうに俯くので、ヒカルは言葉を付け足した。
「あかりじゃなくても、他の誰でもだめなんだ。そういうのってあるじゃん。
 誰でも、ひとりで我慢して、ひとりで考えなくちゃいけない事っていうのがさ」
俯いていたあかりが顔をあげた。そして、さっきまで興奮で赤らめていた頬を
別の意味で赤らめた。
「ヒカル、大人になったよねー」
「なんだよ、急に」
「うん、かっこよくなったよ」
そう言って、目を細めたあかりに、今度はヒカルが頬を染める番だった。
長い睫毛。女性らしいこじんまりした顔立ち。首からのびる、なだらかな肩の線。
こいつはいつのまに、こんなに女性の色香を漂わせるようになったんだろう。
自分とあかりは、昔っから、兄妹のように一緒にいた。よく川遊びもして、
水浸しになっては、河辺で着物を乾かしてから家路についたりしたから、
お互いの裸だって飽きるほど見てる。秋の野原にトンボを採りに行って、あかりが
ギンヤンマに指に思いきり噛みつかれ、そのトンボの思わぬ反撃に泣き続ける彼女を、
意地を張って、ずっと家までおぶって帰ったのだって、つい昨日の事のようだ。
自分達はそうやって、随分長い間ひとつのものを共有し続けていたのに、
いつのまにか男と女になっていて、別の世界の生き物になってしまった。そんな
不思議な感じだった。
ふいに紫宸殿の方で、気配が動いた。
ヒカルが見ると、清涼殿から紫宸殿へを渡って、こちらに来ようとしている座間と
菅原の姿が見えた。



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