平安幻想異聞録-異聞- 185 - 189


(185)
目の端に、巻き上がっていた部屋の御簾を降ろす菅原の姿を捕らえる。
ヒカルはゾッとした。冗談じゃない。こんなところで? 内裏では――
一度だけ、その場の雰囲気に飲まれて佐為としてしまった事があったが、
その時は、佐為はわざわざ人通りの少ない、静かな一角へ連れて行ってくれた。
だが、ここは違う。出仕する大貴族達の従卒たちが控える部屋のすぐ近く。
いつ誰が通りかかるとも、覗きこむとも知れない。
ヒカルは座間の手を振りほどこうともがいた。
体をねじって抗えば、その肩を押さえようと座間が押さえ込んでいた手首を離す。
その隙にヒカルはその解放された片腕で、覆いかぶさる座間の顔を押し戻そうとした。
そのまま大きな体の下から抜け出そうとしたヒカルの足首を、座間の武骨な手が
捕らえた。
骨が折れんばかりに強く握られてヒカルが顔をしかめる。
「今更、何を嫌がっておるのだ」
憤怒の表情に獣の欲をまぜこんだ座間の表情は、いつもの何倍も恐ろしかった。
鬼というものを実際に目にしたらこんな顔に違いない。
ヒカルは、捕らえられていない方の足で座間を蹴って引きはなそうとする。
それで座間の太もものあたりを蹴り付けることには成功したが、何回目かに、
座間に絶妙の呼吸で動きを捕らえられて、その股の間に足をぎっちりと挟ま
れてしまった。
押しても引いても動かない。
片方の足を座間の手で押さえつけられ、もう片方の足は、座間の太ももの間で
締め付けられてピクリともしない。上半身が自由でも、これでは逃げようがない。
それでも、ヒカルは必死に上半身をよじって暴れた。
座間が力ずくで、暴れる足を押さえて自分の方に引き寄せようとするのを、ヒカルは
頭の横の中柱に手をのばして捉まって、体を支え、抗う。
しびれをきらしたらしい座間が、足首を掴んでいない方の手をヒカルの腰にのばした。
ヒカルの顔が強ばった。座間が手を伸ばした先にあるのは太刀だった。
座間邸では刃をつぶした太刀しか与えられていないヒカルも、内裏に警護役とし
て出仕する時には、まがりなりにも真剣を持たされている。
そのヒカルの腰の太刀を座間はすらりと引き抜いたのだ。


(186)
ガツンッ
鋭い音をさせて、まじかの床板に刃が深々と刺さる。
ヒカルの首はちょうど、中柱と床に斜めに突き立てられた太刀との隙間に挟まる
形になってしまった。
刃はヒカルの方を向いている。
下手に動けば、首が切れる。
目の下に鋭利に光る白刃にさすがにヒカルも息を詰め、抗う動きを止めた。
「ようやっと、おとなしくなったか」
座間はヒカルの狩衣の襟元に手をかけると、それを下に着込んだ単衣ごと、
一気に引き剥いた。ヒカルの首から鎖骨、胸までがあらわになる。その胸の上には、
一昨日の夜、三人の公卿達が玩び嬲り回した名残の鬱血の花びらが、今もハラハラと
散っていた。そこに両手を伸ばし、座間はまるで女の胸にそうするように荒々し
く揉みしだく。
「…いやだ……っ」
そのまま、その手はヒカルの指貫の腰帯に延びた。
嫌ってよじる腰の動きを、座間が力で封じる。
腰帯をほどかれる。
「こんな所で…!」
「こんな所だから興が深いのであろうが」
すれすれに太刀を突き立てられたヒカルの首に、座間の生臭い息がかかった。
見れば、座間が自分の着物の前をはだけて、自分の陽物を取りだす所だった。
大きな、赤黒いナマズのような形をしたそれは、すでに反り返って、尖端から涎
を垂らしてぬめっていた。
座間はヒカルの腰を持ち上げ、指貫の布地をかき分けると、ほとんど前戯もなしに
その湿った頭部をヒカルの後ろの門に当て、抗う間もなく、グイと中に押し入った。


(187)
「アッ!…ぐっっ……」
硬く閉じたままの秘門を強引に破られ、一気に奥まで蹂躙されて、ヒカルが
苦悶の声をあげた。
ナマズの頭のように太くこんもりと膨らんだ冠部、濡れた棹の部分。それはだが、
中に入れば、まだ炎のくすぶる松明の燃えさしをそのまま突っ込まれたようだった。
すぐに、座間は乱暴に抜き差しをはじめた。怒りにまかせて、滅茶苦茶にヒカルを
突き上げる。
「う…ゥ……ウグ……あっく……っ、ふ、くっ……あぁっ!」
犯される側のことなど端から念頭にない、激しいだけの律動だったが、それでも
間々として、その硬い玉冠が偶然に内壁のいい所にあたり、ヒカルはその都度に
悲鳴を上げさせられる。
「あぁぁっ!……はっ…くっくっ………やっ、ぁぁぁっ… く……」
「もっと啼け、もっと啼かぬか」
「くぅん…うっく……んっ、んっ、んんっ」
のど元に太刀の刃をつきつけられたままのヒカルは、それでも必死に上半身を
強ばらせて、刃に触れて喉が切れるのを防ごうとしていた。
「このお前の顔を佐為の奴にも、見せてやりたいわ!儂がお前をどう
 扱っているか知っただけで、あの美しい顔があれほどに荒ぶるのだ。
 儂の下でこうして苦しむお前を目の前に見たら、さて、どうなることかのう?」
座間の言葉にヒカルの心が凍った。
「…佐為に、佐為に言ったのか……っっ!?」


(188)
「言ったがどうした!?」
「なんでっっ……!」
「お前を思って歪むあやつの顔は、想像するよりはるかに見物であったわ!」
ヒカルの手が、きつく座間の腕を掴んだ。
「こうやって、俺を好きにしてれば満足だろ!? なんで、佐為まで……クっ」
「その怒った顔まで、あやつに似てきたな、検非違使殿よ。いや、よいぞよいぞ!」
揺さぶる腰の動きを座間は休めない。
「佐為の奴も、行洋も、あの若造までが儂を舐め腐っておってからに…フン、
 なるほど、お前を近衛の家に帰すのと引き換えに、佐為の奴を毎夜嬲り物に
 するのも一興じゃな」
「…くはっ…佐為には手を……っ」
座間の動きはいっそう乱暴な物になった。
「儂の下で奴の名を口にするな! お前は儂の物なのだからな!」
「………佐為っっ!……」
「そんなに奴が恋しいか、ならば会わせてやろうか!? 呼べば来るかも知れぬぞ、
 先ほどそこの清涼殿で顔を会わせたばかりじゃ」
「ウッ……ク……ク……」
「もっと大きな声で呼んだらどうじゃ、来てくれるかも知れぬぞ。なんなら、
 儂が呼んでやろうか?」
「やだ……!やめ……くっっ……はっ…あ…」
「顕忠、行って佐為殿を呼んでこい!」
「お願いっ!……やだっ……それだけはっっ!…あっ、やぁぁ!」
ヒカルの足を両わきに抱え上げ、座間は更に深く、その陽根をヒカルの
内臓に分け入らせた。
「ならばせいぜい儂を楽しませることだ、検非違使殿」
「ひ……うっ……っっ……んんっ…」
思わず首を振ったヒカルのその肌に刀の刃が触れて、髪の一筋ほどの細い
赤い線ができた。
その赤い線から血が滲んで、深紅の粒がひとつ、涙のようにヒカルの
首を伝い落ちていった。


(189)
座間がヒカルの中心に手をのばして、探った。しかしそこは、この状況に怯えて
萎えて萎縮したままだ。
数回そこをしごきたてた座間だったが、すぐに諦めて、より貪欲にヒカルを
貪るために、つながった部分に体重をかけてくる。
苦しさのあまり、その体をどかそうとでもするように座間の腕を掴んだヒカルの
手に力が入り、爪が立てられ血が滲んだが、座間は気にもしない。
耐えることしかヒカルの選択肢には残されていなかった。
今更ながら唇を噛みしめて声を殺そうとする。
御簾で簡単に閉ざされた部屋に響くのは、荒々しく打ち付けられる尻の音と、
手負いの獣にも似た男の呼吸音と、そして、必死で唇を噛んで漏れる声を
抑えようとするヒカルの、鼻にぬけたような小さな悲鳴だけだった。
座間のモノが中で勢い良くはじけた。
この責め苦がやっと終わったことに安心して、ヒカルは大きく深呼吸をした。
ヒカル自身は最後まで萎えたままで、苦痛の余韻ばかりが体を支配した。
座間が、陽物をヒカルのそこから抜き取りながらたちあがり、汚れを
菅原から渡された懐紙でぬぐいとるさまを、ヒカルは早い息を調えながら
白刃越しに眺めた。
喉に熱い部分があって、自分が責められるうちに刃にふれて皮膚が切れたのが
わかった。
菅原の手が伸びてきて、ヒカルの喉元に突き立てられた太刀が抜かれ、近くの床に
乱暴に放り投げられる。
「帰るぞ、身支度をととのえい!」
何事もなかったように装束を正した座間が命じた。
ヒカルはのろのろと痛む体を起こすと、麻痺したように感覚のない指先で、
単衣の前を合わせ、狩衣を着直す。痛む下肢を引き寄せるようにして足を畳み、
乱れた指貫を直し、腰帯をしっかりと締め直す。



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