平安幻想異聞録-異聞- 186 - 190
(186)
ガツンッ
鋭い音をさせて、まじかの床板に刃が深々と刺さる。
ヒカルの首はちょうど、中柱と床に斜めに突き立てられた太刀との隙間に挟まる
形になってしまった。
刃はヒカルの方を向いている。
下手に動けば、首が切れる。
目の下に鋭利に光る白刃にさすがにヒカルも息を詰め、抗う動きを止めた。
「ようやっと、おとなしくなったか」
座間はヒカルの狩衣の襟元に手をかけると、それを下に着込んだ単衣ごと、
一気に引き剥いた。ヒカルの首から鎖骨、胸までがあらわになる。その胸の上には、
一昨日の夜、三人の公卿達が玩び嬲り回した名残の鬱血の花びらが、今もハラハラと
散っていた。そこに両手を伸ばし、座間はまるで女の胸にそうするように荒々し
く揉みしだく。
「…いやだ……っ」
そのまま、その手はヒカルの指貫の腰帯に延びた。
嫌ってよじる腰の動きを、座間が力で封じる。
腰帯をほどかれる。
「こんな所で…!」
「こんな所だから興が深いのであろうが」
すれすれに太刀を突き立てられたヒカルの首に、座間の生臭い息がかかった。
見れば、座間が自分の着物の前をはだけて、自分の陽物を取りだす所だった。
大きな、赤黒いナマズのような形をしたそれは、すでに反り返って、尖端から涎
を垂らしてぬめっていた。
座間はヒカルの腰を持ち上げ、指貫の布地をかき分けると、ほとんど前戯もなしに
その湿った頭部をヒカルの後ろの門に当て、抗う間もなく、グイと中に押し入った。
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「アッ!…ぐっっ……」
硬く閉じたままの秘門を強引に破られ、一気に奥まで蹂躙されて、ヒカルが
苦悶の声をあげた。
ナマズの頭のように太くこんもりと膨らんだ冠部、濡れた棹の部分。それはだが、
中に入れば、まだ炎のくすぶる松明の燃えさしをそのまま突っ込まれたようだった。
すぐに、座間は乱暴に抜き差しをはじめた。怒りにまかせて、滅茶苦茶にヒカルを
突き上げる。
「う…ゥ……ウグ……あっく……っ、ふ、くっ……あぁっ!」
犯される側のことなど端から念頭にない、激しいだけの律動だったが、それでも
間々として、その硬い玉冠が偶然に内壁のいい所にあたり、ヒカルはその都度に
悲鳴を上げさせられる。
「あぁぁっ!……はっ…くっくっ………やっ、ぁぁぁっ… く……」
「もっと啼け、もっと啼かぬか」
「くぅん…うっく……んっ、んっ、んんっ」
のど元に太刀の刃をつきつけられたままのヒカルは、それでも必死に上半身を
強ばらせて、刃に触れて喉が切れるのを防ごうとしていた。
「このお前の顔を佐為の奴にも、見せてやりたいわ!儂がお前をどう
扱っているか知っただけで、あの美しい顔があれほどに荒ぶるのだ。
儂の下でこうして苦しむお前を目の前に見たら、さて、どうなることかのう?」
座間の言葉にヒカルの心が凍った。
「…佐為に、佐為に言ったのか……っっ!?」
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「言ったがどうした!?」
「なんでっっ……!」
「お前を思って歪むあやつの顔は、想像するよりはるかに見物であったわ!」
ヒカルの手が、きつく座間の腕を掴んだ。
「こうやって、俺を好きにしてれば満足だろ!? なんで、佐為まで……クっ」
「その怒った顔まで、あやつに似てきたな、検非違使殿よ。いや、よいぞよいぞ!」
揺さぶる腰の動きを座間は休めない。
「佐為の奴も、行洋も、あの若造までが儂を舐め腐っておってからに…フン、
なるほど、お前を近衛の家に帰すのと引き換えに、佐為の奴を毎夜嬲り物に
するのも一興じゃな」
「…くはっ…佐為には手を……っ」
座間の動きはいっそう乱暴な物になった。
「儂の下で奴の名を口にするな! お前は儂の物なのだからな!」
「………佐為っっ!……」
「そんなに奴が恋しいか、ならば会わせてやろうか!? 呼べば来るかも知れぬぞ、
先ほどそこの清涼殿で顔を会わせたばかりじゃ」
「ウッ……ク……ク……」
「もっと大きな声で呼んだらどうじゃ、来てくれるかも知れぬぞ。なんなら、
儂が呼んでやろうか?」
「やだ……!やめ……くっっ……はっ…あ…」
「顕忠、行って佐為殿を呼んでこい!」
「お願いっ!……やだっ……それだけはっっ!…あっ、やぁぁ!」
ヒカルの足を両わきに抱え上げ、座間は更に深く、その陽根をヒカルの
内臓に分け入らせた。
「ならばせいぜい儂を楽しませることだ、検非違使殿」
「ひ……うっ……っっ……んんっ…」
思わず首を振ったヒカルのその肌に刀の刃が触れて、髪の一筋ほどの細い
赤い線ができた。
その赤い線から血が滲んで、深紅の粒がひとつ、涙のようにヒカルの
首を伝い落ちていった。
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座間がヒカルの中心に手をのばして、探った。しかしそこは、この状況に怯えて
萎えて萎縮したままだ。
数回そこをしごきたてた座間だったが、すぐに諦めて、より貪欲にヒカルを
貪るために、つながった部分に体重をかけてくる。
苦しさのあまり、その体をどかそうとでもするように座間の腕を掴んだヒカルの
手に力が入り、爪が立てられ血が滲んだが、座間は気にもしない。
耐えることしかヒカルの選択肢には残されていなかった。
今更ながら唇を噛みしめて声を殺そうとする。
御簾で簡単に閉ざされた部屋に響くのは、荒々しく打ち付けられる尻の音と、
手負いの獣にも似た男の呼吸音と、そして、必死で唇を噛んで漏れる声を
抑えようとするヒカルの、鼻にぬけたような小さな悲鳴だけだった。
座間のモノが中で勢い良くはじけた。
この責め苦がやっと終わったことに安心して、ヒカルは大きく深呼吸をした。
ヒカル自身は最後まで萎えたままで、苦痛の余韻ばかりが体を支配した。
座間が、陽物をヒカルのそこから抜き取りながらたちあがり、汚れを
菅原から渡された懐紙でぬぐいとるさまを、ヒカルは早い息を調えながら
白刃越しに眺めた。
喉に熱い部分があって、自分が責められるうちに刃にふれて皮膚が切れたのが
わかった。
菅原の手が伸びてきて、ヒカルの喉元に突き立てられた太刀が抜かれ、近くの床に
乱暴に放り投げられる。
「帰るぞ、身支度をととのえい!」
何事もなかったように装束を正した座間が命じた。
ヒカルはのろのろと痛む体を起こすと、麻痺したように感覚のない指先で、
単衣の前を合わせ、狩衣を着直す。痛む下肢を引き寄せるようにして足を畳み、
乱れた指貫を直し、腰帯をしっかりと締め直す。
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立ち上がる前に少し離れた場所に投げ出された太刀に手を伸ばす。さっきまで
自分の身動きを封じる楔になっていたそれを、ヒカルはたどたどしい程の動作で
鞘に戻した。元気な時のヒカルだったら、それを手にして後先も考えず、
自分に背を向けている座間に切りかかるぐらいの事はしたかもしれない。だが、
今のヒカルには、そんなことを思いつく気力さえなかった。
軋む体を柱で支えて立ち上がったヒカルの足を、座間の放った泥液が、腿伝いに
落ちていく感触がしたが、それをふき取る暇すら与えられなかった。
座間と菅原が清涼殿を去った後、その入り口には佐為と藤原行洋だけが
残されていた。
伊角は、帝との謁見があるとかで、すぐにその場を立ち去ってしまったのだ。
「さて……」
行洋が話を切りだした。
「先ほどの伊角殿の話、どう思う?」
「何のお話でしょう?」
「お前の様子を見て、どうやら何か座間殿について、私の知らぬ話を知っている
ように思ったのでな」
「さあ、伊角殿は何か知っているようですが、私もかのお人については噂以上の
ものは聞いておりませんので」
「それにしては、お前らしくない大変な憤りようではないか」
お前などと馴れ馴れしく呼ばれた佐為の方が、苛立ったように行洋を見た。
「どうやら、お前と座間殿と、あの近衛といかいう検非違使の間で何かあった
ようだが、私にできる事があったらと、思ったのだが」
佐為が苦々しい思いで下を見た。ともすれば噴き出しそうになる気持ちを
抑えるためにだ。
今、行洋の顔を見れば、先ほど垣間見せた政治家としての顔の方が先に立ち、
一度は心の奥底に埋めた憎しみの感情が戻って来てしまいそうなのだ。
「結構です。助けなどいりません」
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