Shangri-La 19
(19)
「なんでもっと早く教えてくれなかった?」
少しずつ、アキラの声に力が篭る。
「あ、え…ごめん…。ちょっと塔矢…、怖い――」
ヒカルの目は畏怖で見開かれていた。アキラは指摘されて初めて、
ヒカルにつかみ掛からんばかりの自分に気づき、改めて座り直した。
「――すまない。でもなぜ、教えてくれなかった。」
「ごめん…誰とも合いたくなかったし、誰とも話したくなかったんだ…」
そう答えるヒカルは酷く疲れていて、何十歳も歳を取ったようだった。
アキラは心臓が搾られる思いだった。そんなヒカルを見るのが辛かった。
ヒカルをそっとなだめるように、出来るだけ優しく声をかける。
「で、お母さんの具合は?」
「うん――手術して、今は普通の病室にいるけど、殆ど寝てて
あんまり話とかはしなくって、でもまだあと一回手術あるし…」
「――そうか…。随分ひどい怪我だったんだ?」
「うん…」
「それより進藤は、大丈夫なのか?」
「え、オレ?――うん、別に普通だけど…?」
「そうかな?顔色も悪いし、普通には見えないよ。」
「そんなことないよ。オレは元気だって」
「いや…、なんかすごく疲れてるように見えるけど」
「疲れてなんかないって!最近は感覚もすげー冴えてるし!
そーだ、今お前と打ったら絶対負けないって。そんくらい冴えてるから」
ヒカルの瞳に、光が宿っている。いつもとは全く違う、嫌な色だった。
「――それ、ホント?おかしくない?」
「本当だって!疑うなら、今から一局打とうぜ。碁会所でどうだ?」
「今日はもう閉めたよ。お父さんが帰ってきたから、今日は早じまいしたんだ」
「そうか…」
ヒカルは少し考えて、じゃあ家来いよ、とアキラを誘った。
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